アギーレ,神の怒り(読み)アギーレかみのいかり(その他表記)Aguirre, Der Zorn Gottes

改訂新版 世界大百科事典 「アギーレ,神の怒り」の意味・わかりやすい解説

アギーレ,神の怒り (アギーレかみのいかり)
Aguirre, Der Zorn Gottes

1960年代後半から70年代に台頭した〈ニュー・ジャーマン・シネマ〉の金字塔といわれるヘルツォークWerner Herzog(1942- )監督の1972年作品。《小人饗宴》(1970),《カスパー・ハウザーの謎》(1974)では疎外された人間の抵抗や狂気を描き,《蜃気楼》(1968),《ガラスの心》(1976)では世界の終末の予感に満ちた地球の奇怪な原風景を描き,《生の証明》(1967),《シュトロツェクの不思議な旅》(1977)では西欧文明への絶望と人間性の崩壊を描いたヘルツォーク監督が,未知カタストロフ破局)に魅せられたように突き進んでいく人間たちの肉体的,精神的な極限状況を,原生林に包まれた大アマゾン流域にオール・ロケを敢行して描き出す。〈映画史の異端児〉と呼ばれながらもドイツ表現派の正統的後継者を自認するヘルツォークならではの映像世界,〈時間が失われ,空間が無限に広がる,まるでグリム童話のページのかなたにあるおとぎの国〉が現出する。70年代の若い知識人や芸術家の世代の熱狂的なカルト崇拝)の対象となって神話化された〈カルトムービー〉の1本で,川を下り伝説をさかのぼるという〈黙示録的な〉イメージ(伝説の黄金郷エル・ドラド〉を求めてアマゾン川を下っていく物語である)は,フランシス・コッポラ監督の〈ベトナム物〉の超大作《地獄の黙示録》(1978)の原点と評されたが,これに対してヘルツォークは自作のある種のリメークとして,〈川をさかのぼっていく〉映画《フィッツカラルド》(1981)をやはりアマゾンの奥地にロケして作り,ジョン・ヒューストン的な男の〈野望とその挫折〉を大型汽船の山越えのイメージに描いて見せ,そのスケールの大きさによって,ディノ・デ・ラウレンティスの目にとまり,ハリウッドに招かれることになった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アギーレ,神の怒り」の意味・わかりやすい解説

アギーレ・神の怒り
あぎーれかみのいかり
Aguirre, der Zorn Gottes

ドイツ映画。1972年製作。「ニュー・ジャーマン・シネマ」とよばれる、1960年代に始まるドイツ映画の新しい世代を担った監督の一人、ウェルナー・ヘルツォークの名を世界に知らしめた作品で、『タイム』誌が選ぶ「歴代映画100選」(2005)に選出されている。16世紀なかば、実在したスペインの軍人ロペ・デ・アギーレLope de Aguirre (1510/1515―1561)のアマゾン探検の史実をもとに、欲望と妄想にとらわれた人間の破滅への軌跡を描く。伝説の黄金郷エルドラドを目ざす探検隊の副隊長アギーレはしだいに正気を失い、自ら帝国を築く願望を抱くようになる。彼は隊長を殺して隊を乗っ取るが、一行は熱病と飢えに苦しんだあげく、先住民の攻撃を受けて壊滅。生き残ったアギーレの執念のことばがジャングルに響き渡る。

 断崖絶壁の岩山の細い道に延々と連なる行軍を捉えた冒頭シーンなど、16世紀の探検に同行しているかのような迫真性と、それ自体が生きているようなジャングルの神秘的な大自然、そしてアギーレを演じる性格俳優クラウス・キンスキーKlaus Kinski(1926―1991)の強烈な存在感が観る者を圧倒する作品。

[濱田尚孝]

『『解凍!ヘルツォーク』(2000・パンドラ、現代書館発売)』

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デジタル大辞泉プラス 「アギーレ,神の怒り」の解説

アギーレ・神の怒り

1972年製作の西ドイツ映画。原題《Aguirre, der Zorn Gottes》。監督:ベルナー・ヘルツォーク、出演:クラウス・キンスキー、ヘレナ・ロホ、ルイ・グエッラほか。

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