二重結合を9・12・15位にもつ直鎖不飽和脂肪酸C18H30O2で、リノール酸ときわめてよく似た分布を示し、グリセリドとして多くの乾性油の主成分をなす。植物油、とくにあまに油、エゴマ油に多く含まれる。動物体内では生合成されず、必須脂肪酸(ひっすしぼうさん)の一つで、リノール酸とともにビタミンFとよばれたこともある。
[若木高善]
α(アルファ)-リノレン酸は必須脂肪酸であるが、リノール酸とは異なった特異的生理作用を有している。動物体内で不飽和化され生成するエイコサペンタエン酸から血小板凝集能を有さないトロンボキサンがつくられるので、エイコサペンタエン酸に富む魚や海獣を多食するエスキモー(カナダなどではイヌイット)では血栓(けっせん)症、心筋梗塞(こうそく)が少ない。不飽和化産物の一つであるドコサヘキサエン酸は、脳や網膜などに多く存在し、脳神経系で特別な機能を果たしている。α-リノレン酸は食用植物油では大豆油、菜種油に少量含まれるが、酸化されやすい。
[菅野道廣]
『高分子学会バイオ・高分子研究会編『特異な機能を有する微生物とその応用』(1989・学会出版センター)』▽『奥山治美著『油 このおいしくて不安なもの――くずれたリノール酸神話 油とつきあう健康法』(1989・農山漁村文化協会)』▽『溝口敦著『あぶない食品物語』(1993・小学館)』▽『彼谷邦光著『脂肪酸と健康・生活・環境――DHAからローヤルゼリーまで』(1997・裳華房)』▽『イムノロジー研究会編著、飯島茂子監修『よみがえれ、あなたの細胞力』(1998・東洋出版)』▽『日本脂質栄養学会監修、奥山治美・菊川清見編『脂質栄養と脂質過酸化――生体内脂質過酸化は傷害か防御か』(1998・学会センター関西)』▽『奥山治美著『薬でなおらない成人病(生活習慣病)――油脂(あぶら)の栄養革命で健康を取り戻す』(1999・黎明書房)』▽『原健次著『生理活性物質――共役リノール酸の生化学と応用』(2000・幸書房)』▽『菅野道廣著『「あぶら」は訴える――油脂栄養論』(2000・講談社)』▽『日本エゴマの会編、村上みよ子・田畑久恵料理制作『よく効くエゴマ料理――油も葉も種も丸ごと健康の素』(2001・創森社)』
化学式CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH。シス-9,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸で,二重結合が三つある不飽和脂肪酸。ほとんどの乾性油中に存在し,とくに亜麻仁油には35~50%と大量に含まれる。一般に動物油中には見いだされないが,魚油などには0.4~1.3%存在する。純品は,亜麻仁油などの脂肪酸をアセトンなどの有機溶剤を用いて分別結晶をくり返し,吸着クロマトグラフィーなどを用いて作られる。融点-11~-10℃,沸点197℃(4mmHg),比重d240=0.9046,屈折率n2D0=1.4780。水に不溶,エチルアルコールなどの有機溶剤に易溶。空気中で酸化されやすい。亜麻仁油などの乾性油を薄い膜に塗布して空気中に放置すれば表面が固化乾燥して皮膜を生ずるが,これは乾性油中に多く含まれるリノレン酸などの高度不飽和脂肪酸が酸化重合するためである。リノレン酸を臭素化すれば六臭化物となる。アルカリ性過マンガン酸で酸化すればヘキサオキシステアリン酸となり,水素添加をすればステアリン酸を生ずる。リノール酸とともにビタミンFと呼ばれる不可欠脂肪酸である。
執筆者:内田 安三
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…動物が生体内で合成できず,食物によって摂取する必要のある脂肪酸をいう。バーG.O.BurrらおよびエバンズH.M.Evansは,動物の栄養にリノール酸,リノレン酸などが必要であることを明らかにし,これらをまとめてビタミンFと命名した(1934)。その後,それ以外にアラキドン酸も必要であることもわかった。…
※「リノレン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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