日本大百科全書(ニッポニカ) 「シックハウス症候群」の意味・わかりやすい解説
シックハウス症候群
しっくはうすしょうこうぐん
Sick House Syndrome
建物の室内環境が原因で健康被害を呈するものをいう。「居住者の健康を維持するという観点から問題のある住宅においてみられる健康障害の総称」と考えられている。略称SHS。類似用語にはシックビルディング症候群、シックスクール症候群、ビル関連病、住宅関連病がある。
SHSは社会的には認知されているが、医学的な定義はなく疾病概念もあいまいである。もともと、SHSとは欧米で社会問題となったシックビルディング症候群をもじった和製英語である。厚生労働省補助金事業「シックハウス症候群の疫学調査」(主任研究者:小田島安平)で「特定の建物において、化学物質やアレルゲン及び微生物等の影響により、皮膚粘膜刺激症状や不定愁訴を中心とした症状を呈する状態」と定義した。これを広義のSHSとしている。一方、狭義のSHSとは「特定の室内環境における外的因子の関与でおこる非特異的症状(病因や病態が医学的に解明されているものを除外する)を呈する状態」と定義される。この定義にはアレルゲン微生物などが原因のものを除いている。
[小田島安平]
概論
SHSに特異な症状は存在しないが、訴えの多い症状は、(1)皮膚、目、咽頭(いんとう)、気道などの皮膚粘膜刺激症状、(2)全身倦怠感、めまい、頭痛、頭重感などの不定愁訴である。SHSの危険因子としては、(1)個人の医学的背景(アレルギー体質やアレルギー疾患、女性、更年期、皮膚疾患)、(2)個人の仕事(複写機の使用、カーボン紙の使用、職場のストレス)、(3)建物の要因(室外空気の供給不足、汚染源の存在、掃除、紫外線)などがかかわってくる。
[小田島安平]
歴史・現状と将来への課題
アメリカ、ヨーロッパで1970年代後半よりオフィスビルでの健康障害をシックビル症候群として社会問題化した。日本では、2002年(平成14)1月に厚生労働省の「シックハウス問題に関する検討会」で13の化学物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなど)の室内濃度指針が策定された。これは、現時点での中毒学的に一生涯その濃度であれば暴露を続けても問題のない濃度という観点で算出された濃度指針値である。ただし、この濃度指針値を超えた化学物質が証明された状況(場所)で皮膚粘膜の刺激症状がある場合、それらすべてがSHSだとは限らない。
大規模調査ではアレルギーを含む広義のSHSの有病率は19.8%、含まない狭義のSHSは4.6%であった。このように通常、SHSはアレルギー疾患を基礎疾患としてもっていることが多い。このため広義のSHSは室内の臭いの出る物質の除去などの環境整備、アレルギー疾患の治療で症状が軽減する可能性がある。
[小田島安平]
『日本建築学会編『シックハウス事典』(2001・技報堂出版)』▽『日本薬学会編、安藤正典著『住まいと病気――シックハウス症候群・化学物質過敏症を予防する』(2002・丸善)』▽『室内空気質健康影響研究会編『室内空気質と健康影響――解説シックハウス症候群』(2004・ぎょうせい)』▽『日本建築学会編・刊『シックハウスを防ぐ最新知識――健康な住まいづくりのために』(2005・丸善発売)』▽『吉田弥明・井上雅雄著『シックハウス対策の最新動向――環境設計・測定・治療』(2005・エヌ・ティー・エス)』▽『吉川敏一編、住環境疾病予防研究会編集協力『シックハウス症候群とその対策――シックハウス・シックスクールを防ぐために』(2005・オーム社)』