アドルフ(読み)あどるふ(英語表記)Adolphe

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アドルフ」の意味・わかりやすい解説

アドルフ
あどるふ
Adolphe

フランスの作家バンジャマン・コンスタンの自伝的心理小説。1816年発表。名家の青年アドルフは、征服欲から友人の妾(めかけ)を誘惑するが、やがて女の愛を負担に感じるようになる。女は故国ポーランドに帰り、青年は義務感から運命をともにする。しかし2人の間にはいさかいが絶えず、女は苦悶(くもん)の果てに死ぬ。悔恨に包まれ孤独に生きる青年の手記という形式のこの作品は、愛にまつわるさまざまの情念の交錯する場を執拗(しつよう)なまでに分析し、ついに愛そのものの不可能性を示すに至る。精巧かつ堅固な古典的文体を通して、主人公の優柔不断な思考や言動背後に、人間本来の弱さを正視し、同時に断罪しようとする語り手の厳しい倫理性を読み取ることができる。冷徹な自己分析の書として、また生の倦怠(けんたい)と愛のはかなさを説く初期ロマン派の代表作として、後世に与えた影響は大きい。女主人公エレノールには、スタール夫人の影が濃くさしているといわれる。

工藤庸子

『滝田文彦訳『アドルフ』(『世界の文学3』所収・1969・中央公論社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アドルフ」の意味・わかりやすい解説

アドルフ
Adolphe

フランスの政治家,小説家 B.コンスタンの中編小説。 1806年執筆,16年刊。ある人物の手記の形をとる当時流行の自伝体小説。倦怠に悩む青年アドルフと,ある伯爵囲い者であるエレノールとの恋愛を,求愛から愛の獲得,さめていく情熱,破局にいたるまで,その諸相を簡潔な文体で的確に描写した恋愛心理小説の傑作。この作品には,作者とスタール夫人との愛情関係が投影されているともいわれている。

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