日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルカイオス」の意味・わかりやすい解説
アルカイオス
あるかいおす
Alkaios
生没年不詳。紀元前600年前後に活躍したギリシアの叙情詩人。レスボス島のミティレネに生まれる。同時代で同郷の女流詩人サッフォーと並ぶ代表的詩人。前7世紀末のレスボス島は内乱と政争に明け暮れていたが、アルカイオスは貴族派に属してこれに積極的に参加した。しかし内乱を平定した政敵のピッタコスが権力を手中に収めるや(前590~前580)、彼の政治活動は失敗に終わった。その後、亡命して各地の君主に仕えたり、エジプト旅行も伝えられているが、これはピッタコスによる二度目の追放中のことであったらしい。
詩集は10巻にまとめられていたが、断片以外は残っていない。その詩は、政治詩、神々への賛歌、英雄伝説を扱った詩、恋愛詩、酒の歌の5種に分類される。詩人としての個性がもっともよく発揮されているのは政治詩であって、政敵に対する憎悪と呪詛(じゅそ)を腹蔵なく吐露している。これに比べて、神々や英雄に関する歌は平凡である。酒の歌は宴会で歌われ、酒に託して生活の苦労を忘れようというもので、公的性格の強い政治詩とは違って、日々の詩人の内面がすなおに表現されていて興味深い。彼がよく用いた詩形と韻律は、ローマの詩人ホラティウスに愛好された。
[橋本隆夫]
『呉茂一訳『ギリシア抒情詩選』(岩波文庫)』