アマダイ(読み)あまだい(その他表記)tilefishes

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アマダイ」の意味・わかりやすい解説

アマダイ
あまだい / 甘鯛
tilefishes
branquillos
quakerfishes
horseheads

硬骨魚綱スズキ目アマダイ科Branchiostegidaeに属する海水魚の総称。キツネアマダイ科Malacanthidaeのなかのアマダイ亜科Brachiosteginaeとする研究者もいる。南日本からフィリピン、インド洋にわたって分布し、水深50~300メートルの底層にすむ。全長30~50センチメートルに達し、体はやや長く側扁(そくへん)する。前頭部は隆起して丸い。目は頭の背縁の湾曲部近くに位置し、目下の幅は著しく広い。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の隅角(ぐうかく)部に肥大した棘(きょく)がない。背びれの前に低い隆起がある。背びれは1基で、基底は長く、普通は7棘15軟条、臀(しり)びれは2棘12軟条。仔魚(しぎょ)は浮遊性で、頭部に無数の棘や鋸歯(きょし)状の隆起があり、伸長した鰭条(きじょう)はない。

片山正夫・尼岡邦夫 2020年12月11日]

日本の種類

日本近海のアマダイ属にはアカアマダイキアマダイシロアマダイの3種が普通にみられるが、それ以外にハナアマダイスミツキアマダイがいる。

 アカアマダイは体色の赤みが強く、目の直後に倒三角形の銀白色の斑紋(はんもん)がある。キアマダイは体色の黄色が強く、目の下縁から上顎(じょうがく)に走る銀白線がある。シロアマダイ(別名シラカワ)は体色が白っぽい。ハナアマダイは2012年(平成24)に日本の魚類学者らによって沖縄本島近海から発見された。水深100~200メートルの泥底にすむ。スミツキアマダイは山口県の日本海沿岸、男女(だんじょ)群島近海、台湾北部、済州島(さいしゅうとう)(韓国)などの海域に生息する。

 魚屋の店頭でもっとも普通にみられるのはアカアマダイで、大阪地方でクズナ、京都地方でグジとよばれている。また静岡地方でオキツダイとよばれているが、これは1821年(文政4)に書かれた『甲子夜話(かっしやわ)』という本に、「徳川家康が駿府(すんぷ)城(静岡市)にいたころ、奥女中の興津の局(おきつのつぼね)が実家へ戻った土産(みやげ)にアマダイの生干しを献上した。家康はその美味に感心して、興津の局が持参したからオキツダイとよぶように言った」とあり、以来、静岡地方でとれるアマダイをオキツダイというようになったと伝えられている。

[片山正夫・尼岡邦夫 2020年12月11日]

生態

アマダイ類はやや深い砂泥底にすむが、種によって生息深度が異なり、もっとも浅い所にはシロアマダイ、深い所にはアカアマダイがいて、キアマダイはその中間である。砂泥底に穴を掘り、体をなかば埋めてすんでおり、付近にいるエビ類、カニ類、小魚、貝類、ゴカイ類などを食べる。

 アカアマダイは、南日本の各地で底引網、延縄(はえなわ)、釣りなどで漁獲され、シロアマダイやキアマダイはおもに底引網で漁獲されるが量的にはアカアマダイより少なく、とくにキアマダイは少ない。相模(さがみ)湾や駿河(するが)湾などでは、11月から翌年4月にエビを餌(えさ)にした手釣りが盛んに行われる。

[片山正夫・尼岡邦夫 2020年12月11日]

料理

アカアマダイは単にアマダイともいっている。シロアマダイはシラカワ(白皮)の名でよばれ、アマダイ類中もっとも美味で高価である。アマダイは焼き物や煮物などにされるが、水分の多い魚なので軽く干すなり、みそ漬けや粕(かす)漬けなどに加工すると味がよくなる。アマダイの旬(しゅん)は11月から翌年4月ごろまでとされているが、地方によってはほかの季節でも美味である。

多田鉄之助


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改訂新版 世界大百科事典 「アマダイ」の意味・わかりやすい解説

アマダイ (甘鯛)

スズキ目アマダイ科Branchiostegidaeに属する日本産のシロアマダイ,アカアマダイ,キアマダイの総称。体型はよく似ているが,体色が異なっている。シロアマダイBranchiostegus albusは体色が白っぽいこと,アカアマダイB.japonicusは鮮紅色で眼の後方に銀白色の三角斑があること,キアマダイB.argentatusは眼から上あごにかけて銀白色であることなどにより区別できる。シロアマダイは深さ30~100mのところにすみ,全長60cmに達する。アカアマダイは日本ではもっともふつうに見られ,深さ30~150mにすみ,全長50cm余になる。キアマダイは3種のうちでもっとも深いところにすみ,全長30cmを超す程度で漁獲量も少ない。いずれも本州中部以南,東シナ海,台湾などの沿岸の砂泥底に巣穴を掘ってすむ。魚類,甲殻類,多毛類,貝類などの底生動物を食べる。アカアマダイの産卵期は9~12月で,体長20~30cmの親で12万~22万粒の卵を産む。底引網などで漁獲される。
執筆者:

江戸前期から《本朝食鑑》その他の諸書が,アマダイの美味を賞している。焼物では西京漬などのみそ漬,照焼き,幽庵焼き,蒸物では酒蒸し,そば蒸しなどがよい。生食は,東京では肉がやわらかいのでほとんど行わないが,関西では糸作りの刺身などにする。有名な興津鯛は駿河湾産のもので,おもに生干しにされた。若狭湾のものは一塩(ひとしお)の若狭グジとして賞味される。
執筆者:


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栄養・生化学辞典 「アマダイ」の解説

アマダイ

 スズキ目アマダイ科の魚.本州の中部より南で多くとれる,高級な食用海産魚.アカアマダイ[Branchiostegus japonicus](Japanese tilefish, red horsehead),キアマダイ[B. auratus](yellow horsehead),シロアマダイ[B. albus](white horsehead) その他がある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

百科事典マイペディア 「アマダイ」の意味・わかりやすい解説

アマダイ

アマダイ科に属する日本産のシロアマダイ,アカアマダイ,キアマダイの総称。いずれも砂泥地にすむ底魚。最も多いのがアカアマダイで,普通にアマダイといえばこれをさす。赤みが強く,全長50cm余になる。南日本に分布。肉はやや水っぽいが,みそ漬,粕(かす)漬などにすると美味。シロアマダイはやや白っぽく非常に美味。キアマダイは産額が最も少ない。地方名はこれらを混称してクズナ,グジ,グシ,クジなどという。

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世界大百科事典(旧版)内のアマダイの言及

【テンス】より

…体高が高く,側扁度が強い。体型が似ているのでアマダイ(串本)とも呼ばれることがある。テンスは三崎,江ノ島での呼名で,テス(関西,四国)ともいう。…

※「アマダイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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