アマチャ(英語表記)Hydrangea macrophylla(Thunb.) Seringe ssp.serrata (Thunb.)Makino var.oamacha Makino

改訂新版 世界大百科事典 「アマチャ」の意味・わかりやすい解説

アマチャ (甘茶)
Hydrangea macrophylla(Thunb.) Seringe ssp.serrata (Thunb.)Makino var.oamacha Makino

ヤマアジサイアジサイ)の変異種のうち,外形的には区別されないが,植物体が甘みを呈する系統オオアマチャとも呼ぶ。またアマチャより全体小型のものを,コアマチャvar.thunbergii Makinoといい,どちらも寺院などに栽植される。伊豆地方のアマギアマチャH.macrophylla ssp.angustata(Fr.et Sav.) Kitam.は葉が狭長で,花色は淡色である。
執筆者: アマチャの甘味成分はフィロズルシンphyllodulcinとイソフィロズルシンであるが,新鮮な葉の中には配糖体として含有されていて甘くない。酵素作用で分解され甘くなり,乾燥葉は甘茶の原料とされ,また甘味,矯味薬として,家庭薬原料,口腔清涼剤として用いられる。
執筆者: 甘茶は甘葛(あまずら)との区別が古来明確でなかったから,文献には見られぬが,砂糖が普及するまでは甘味料として飲食に供されていたと思われる。4月8日の灌仏会(かんぶつえ)には各所の寺院で花御堂を作り,誕生仏に甘茶をそそぐ。また,参詣者は甘茶をもらって持ち帰り,それで墨をすって,〈千早振る卯月八日は吉日よ神さけ虫を成敗ぞする〉という歌を書いて便所などにはり,虫除(むしよけ)のまじないとした。しかし,《中右記》の寛治8年(1094)4月8日の条には〈例によって御灌仏あり……まず仏を礼し花を散じ,五色水を灌ぐ〉とあり,また,甘茶をそそぐとする記事が見られるのは《秇苑日渉(げいえんにつしよう)》《守貞漫稿》など19世紀に入ってからのものになるので,灌仏に甘茶を用いるようになったのはあまり古いことではないようである。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アマチャ」の意味・わかりやすい解説

アマチャ
あまちゃ / 甘茶
[学] Hydrangea serrata (Thunb.) Ser. var. thunbergii (Sieb.) H.Ohba
Hydrangea macrophylla Seringe var. thunbergii Makino

ユキノシタ科(APG分類:アジサイ科)の落葉低木で、ヤマアジサイの1変種。コアマチャともいう。茎の高さは60~80センチメートル、葉は先のとがった楕円(だえん)形で長さ5~8センチメートル、茎に対生する。夏に枝先に多数の小花をつける。周辺の中性花の花弁状のものは萼(がく)で、先端が丸みを帯びてややくぼむ。初め青色、のちに紅紫色となる。アマギアマチャvar. angustata (Fr. et Sav.) H.Ohba(var. amagiana Makino)は伊豆半島の山地に自生し、アマチャより葉は狭く、生時から甘味がある。中性花は白色

[星川清親 2021年3月22日]

文化史・利用

4月8日の灌仏会(かんぶつえ)(花祭(はなまつり))に甘茶を用いる習慣は、いつごろ始まったのか明らかではないが、室町時代には単に湯や香湯をかけていたものが、江戸時代に甘茶に変わった。その原形は中国と思われ、中国の『荊楚(けいそ)歳時記』(6世紀)には、釈迦(しゃか)誕生のとき天から甘露水が降ったという伝説が伝えられる。なお、原義から甘茶でなく天茶が正しいとする見方があり、シーボルトもそれをとった。

 甘茶の甘味成分はD-フィロズルチンおよびイソフィロズルチンで、甘味度は砂糖の600~800倍の強さをもつ。フィロズルチンは1890年(明治23)薬学者の丹波(たんば)敬三により甘茶から分離された。甘茶は、アマチャの葉を夏から秋にかけて採取し、日干しにしてから、湿らせて発酵させる。よくもむと甘味を生じるので、これをさらに十分乾燥して仕上げる。なお、生葉には甘味はない。乾燥葉を煎(せん)じて飲用にするほか、加工食品の甘味料として、使用されることもある。

[湯浅浩史・河野友美・山口米子 2021年3月22日]


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百科事典マイペディア 「アマチャ」の意味・わかりやすい解説

アマチャ

ユキノシタ科の落葉低木。日本各地で栽培される。野生のヤマアジサイ(ガクアジサイ)の変種で,形はよく似ているが,甘味成分をもつ系統をいう。生葉は甘くなく,葉を半ば乾燥し,発酵させた後,よくもんで乾燥させると甘味(フィロズルチン)が生ずる。これを甘茶といい,花祭に用い,また甘味料あるいは矯味(きょうみ)薬とする。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アマチャ」の意味・わかりやすい解説

アマチャ(甘茶)
アマチャ
Hydrangea macrophylla var. thunbergii

アジサイ科の落葉低木。葉に甘みがあるため古くから日本で栽培されている。ガクアジサイやヤマアジサイなどとも同一種とみなされている。夏に大きな散房花序をつくり,その周辺部に淡青色または白色の 3~4弁の装飾花をもつ点もヤマアジサイとほとんど違わない。葉を乾燥させたものの煎じ汁がいわゆる甘茶で,甘味(成分はフィロズルチン)があり飲料に供する。江戸時代以後,4月8日の灌仏会に釈迦立像に甘茶をかける習慣があるが,これは釈迦生誕のとき,八大竜王が歓喜して産湯に甘露の雨を降らしたという伝説にならったもの。

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栄養・生化学辞典 「アマチャ」の解説

アマチャ

 アマチャ[Hydrangea macrophylla var. thunbergii]というバラ目アジサイ科アジサイ属の灌木の葉をもとに作る甘味のある飲料.

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世界大百科事典(旧版)内のアマチャの言及

【アジサイ】より

…またエゾアジサイH.macrophylla ssp.yezoensis (Koidz.) Kitam.は前者に似ているが,葉や花,果実が大型で,北海道と本州日本海側の多雪地域に分布する。葉に甘味成分を有する系統がヤマアジサイ類のなかにあり,アマチャと呼ばれる。このほかアジサイ属には,ノリウツギ,タマアジサイ,ツルアジサイ,コアジサイ,ガクウツギなど数種が日本の山地に自生する。…

【灌仏会】より

…仏教の年中行事の一つ。釈迦が誕生したといわれる4月8日,すべての仏寺で行われる法会であり,日本では花御堂の中央におく水盤の中で,小さい金銅の誕生仏の像の頭上に甘茶を灌(そそ)ぐ祭りをいう。古くは,仏生会(ぶつしようえ),仏誕,降誕会,浴仏斎,竜華会(りゆうげえ)などの名があるが,今では,民族のちがいを超えて国際化し,世界各地の仏教徒がこれに参加する。元来は,インド仏教徒のあいだに,釈迦の誕生に関する奇瑞を伝えて,九竜が天より下って香水でその身を灌浴し,地下より蓮花がわき出て足を支えたとし,また釈迦は四方に周行すること7歩,左手をあげて天を指し,右手を下げて地を指し,天上天下唯我独尊と叫んだという,いわゆる八相成道(はちそうじようどう)の説があって,早くこれを仏教徒共同の祭りとする風が生じた。…

※「アマチャ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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