改訂新版 世界大百科事典 「アリスイ」の意味・わかりやすい解説
アリスイ (蟻吸)
wryneck
Jynx torquilla
キツツキ目キツツキ科の鳥。全長約18cm。羽色は全体が灰褐色で,黒色や褐色の横斑がある。キツツキ類の中では変り者で,他のキツツキ類のように,樹幹に垂直にとまることは少なく,樹皮にくちばしで穴を開けて昆虫類をとることもない。尾羽の羽軸がかたくなく,くちばしも強くない。疎林や林縁にすみ,その名のように地上に降りて長い舌でアリ類の成虫やさなぎを吸いとるようにして食べる。樹上では小鳥類のように,枝に直角にとまり,樹皮の間や葉裏から昆虫類を舌でなめとる。wryneck(ねじれる首)という英名は,威嚇のときや求愛のときに首を左右にねじるようにゆっくり振る習性に由来している。6~7月に,天然の樹洞,キツツキ類の古巣,巣箱などの中に1腹6~9個の卵を産む。抱卵期間は21~24日。ヨーロッパから日本までユーラシア大陸の亜寒帯に分布し,寒い地方のものは冬にアフリカや東南アジアに渡る。日本では北海道と東北地方で繁殖し,冬は本州以南の明るい林や林縁で越冬する。
執筆者:齋藤 隆史
神話,民俗
アリスイは古代ギリシア語ではイユンクスiynxという。もとは牧神パンと木霊エコー(または恋の説得の女神ペイト)の娘で,彼女はゼウスに媚薬(びやく)を飲ませて自分あるいはイオを愛させたので,ヘラにより石,またはアリスイに化せられたとされる。また愛の魔術に使われる道具もイユンクスと呼ばれるが,これは小さな車輪や星の形をし,紐を通して空中で振り回すと奇妙な音を発して恋心を燃え立たせると言われた。本来,アフロディテの考案になり,実際のアリスイを輪に張りつけたものとされ,この呪具(じゆぐ)によりイアソンはメディアの愛を得たと伝えられる。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報