ある婦人の肖像(読み)あるふじんのしょうぞう(その他表記)The Portrait of a Lady

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ある婦人の肖像」の意味・わかりやすい解説

ある婦人の肖像
あるふじんのしょうぞう
The Portrait of a Lady

アメリカの小説家ヘンリー・ジェームズの初期を代表する長編小説で、「国際物語」の一つ。1881年刊。主人公イザベルは、人生の自由な、無限の探究を理想とするアメリカ娘である。叔母に連れられてイギリスに渡り、銀行家である叔父のタチェットとその息子のラルフに会う。自らの理想を貫くために、イギリス貴族ウォーバートン卿(きょう)と、アメリカの実業家カスパー・グッドウッドの求婚を断るが、ラルフの好意により、叔父の遺産の一部を受け、さらに大きな人生の自由を入手する。その後フローレンスで、優雅なマダム・マールの紹介で、美しい少女を連れた、美の使徒とも思えるギルバート・オズモンドを知り結婚するが、少女のための持参金目当て計略にだまされていたことを発見する。それにもかかわらず、不自由と苦しみの人生をあえて甘受し、それを通して人間的成熟を望むという、アイロニー基調とした作品である。

[岩瀬悉有]

『斎藤光訳『筑摩世界文学大系49 ある婦人の肖像』(1972・筑摩書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ある婦人の肖像」の意味・わかりやすい解説

ある婦人の肖像 (あるふじんのしょうぞう)
The Portrait of a Lady

アメリカの作家H.ジェームズの小説。1881年刊。魅力あふれるアメリカ娘イザベル・アーチャーのヨーロッパ探求を克明にたどった作品。ロンドン郊外の由緒ある豪邸に登場した彼女は,そのみずみずしい感性,知的な容姿の美しさ,才気煥発の発言によって居合わせた者を魅了する。一方彼女もこの館の豊かな完成美と光栄ある過去を,自分の憧れていたヨーロッパ文化の精華として受けとめ,さらに深いヨーロッパ体験へと進んでゆく。彼女の前には数名の男性が現れるが,結局彼女の選ぶのは,心の腐敗したディレッタントである。この選択を作者は同情的に分析し,それが人間を信じ,教養を貴び,自由な生き方を求めたために犯した,寛大な誤りであることを示している。彼女は苦難に耐えながら経験を豊かにし,円熟味を増してゆく。作者の主人公への愛情は読者を巻き込み,彼女は明白な弱点にもかかわらず,けなげな姿を読者の脳裏に永久に刻みつける。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ある婦人の肖像」の意味・わかりやすい解説

ある婦人の肖像
あるふじんのしょうぞう
The Portrait of a Lady

アメリカの小説家 H.ジェームズの小説。 1881年刊。美しく賢明なアメリカ娘イザベルはイギリスで一貴族から求婚されるが,イタリアで知合ったアメリカ人オズモンドに魅せられてその後妻となる。しかし先妻の娘とされていたパンジーの結婚問題に際して,パンジーが自宅に出入りするマール夫人と夫の間の子であることを知り,夫が自分の財産を目当てに結婚した俗物にすぎないことを悟るが,イザベルは自己の運命に耐え,自分を信頼しているパンジーへの愛情に生きようとする。イザベルの悲劇的性格とそれを描く間接的手法,物語と作者の倫理観とがみごとな調和を示し,ジェームズの初期における最高の傑作とされる。

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世界大百科事典(旧版)内のある婦人の肖像の言及

【ジェームズ】より

…成人後もヨーロッパ旅行は続いたが,滞英中に愛していた従妹の死を知り衝撃を受けた。彼女は《ある婦人の肖像》《鳩の翼》の主人公の原型となった。75年以後ヨーロッパに永住の決意を固め,最初はパリでツルゲーネフ,フローベール,ゾラらと交遊,ついでロンドンに移り次々に小説を発表してゆく。…

※「ある婦人の肖像」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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