アロステリック効果(読み)あろすてりっくこうか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アロステリック効果」の意味・わかりやすい解説

アロステリック効果
あろすてりっくこうか

酵素反応速度と基質濃度の関係を示すグラフがS字型(シグモイドsigmoid)になる現象。酵素の作用特性を知るための基本的実験として、基質が濃くなるにつれ反応速度がどのように変化するかを測定し、反応速度を縦軸に、基質濃度を横軸にとったグラフ()をつくる。酵素はこの図の曲線aのように直角双曲線になるものが多いのであるが、bまたはcのようにもっと複雑なS字型曲線になる酵素もあり、それがアロステリック効果を示す酵素ということになる。この特性をもつ場合は、生体内での作用を適切に制御しやすい。アロステリック効果のアロalloは「異なる」、ステリックstericは「立体構造」という意味であり、この種の酵素の特性を表すことばとして用いられる。アロステリックな性質をもつ酵素は、生体内での代謝調節に有利である。たとえば、アスパラギン酸トランスカルバミラーゼという酵素は、ピリミジンヌクレオチド合成経路の最初の段階の反応を触媒するが、この経路の最終産物であるシチジン三リン酸(CTP)により阻害される。これは、この酵素の特性が、CTPの存在によって曲線bから曲線cへ変化するためであり、最終産物が十分につくられたときは、同じ濃度の基質があっても、酵素の働きを低く抑えることになる。アロステリック効果を示す酵素は、代謝経路上の重要な段階で働いているものに多く、生物がいろいろな代謝物質の量を適切に保つための調節機構の一つとして重要である。アロステリック酵素は、いくつかのタンパク質分子が集まってできている場合が多い。S字型の基質濃度依存性を示す理由は、このような酵素を構成するサブユニット間での相互作用によると考えられており、このことを説明する理論としては、1963年のJ・L・モノーらによるものと、1966年のコシュランドD. E. Koshland, Jr.らによるものが有名である。

[笠井献一]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アロステリック効果」の意味・わかりやすい解説

アロステリック効果
アロステリックこうか
allosteric effect

酵素分子に他の分子が結合して,アポ酵素の構造を立体的に変化させる効果。その結果,酵素活性が阻害される場合とむしろ促進される場合がある。このような効果を起す物質はアロステリック作用因子 allosteric effectorといわれ,因子が結合する部位はアロステリック部位または制御中心と呼ばれる。この効果が著明な酵素を J.モノと F.ジャコブはアロステリック酵素と称し,そのR (relaxed)ゆるんだ状態のとき基質が結合し,T (tight)ぴんと張った状態のとき作用因子が結合して,両状態の平衡関係によって生体内の代謝は調節されるとした。酸素ヘモグロビンと酸素分圧との関係はこの典型的な例である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android