リプレッサー(その他表記)repressor

翻訳|repressor

デジタル大辞泉 「リプレッサー」の意味・読み・例文・類語

リプレッサー(repressor)

《「レプレッサー」とも》調節遺伝子によって作られ、特定遺伝子群の形質発現を抑制するたんぱく質オペレーター部分に結合して、それに連なるオペロン転写を阻止することにより抑制する。抑制因子

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精選版 日本国語大辞典 「リプレッサー」の意味・読み・例文・類語

リプレッサー

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] repressor ) ある種の調節遺伝子により作られ、特定の遺伝子群(オペロン)の形質発現を抑える働きを持つ制御タンパク質一種。〔ウイルス世界(1965)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「リプレッサー」の意味・わかりやすい解説

リプレッサー
repressor

遺伝子発現制御に重要な役割を果たすタンパク質で,多くの種類が知られている。例えば,大腸菌ラクトース(乳糖)分解に関与する酵素群の場合,環境中にラクトースが存在しないと酵素の合成は抑制されている。これはリプレッサーがオペレーターと呼ばれる特異的なDNA部分に結合して,これらの酵素群の遺伝子の発現,すなわちメッセンジャーRNAの転写を阻害しているからである。一つのリプレッサー分子内にDNAと結合する部位のほかに,ラクトースと結合する部位がある。ラクトースが結合するとリプレッサーの立体構造が変化しDNAと結合できなくなる。このため大腸菌の培養液中にラクトースが存在すると,ラクトース分解に必要な遺伝子の発現が起こる。ヒスチジンというアミノ酸の合成に関与する遺伝子の場合には,リプレッサーはヒスチジンと結合することにより活性な形になり,DNAと結合してヒスチジン合成系酵素の合成を抑制する。また大腸菌を宿主とするウイルスであるλファージが,宿主の染色体に組み込まれてプロファージとなるときにもリプレッサーが必要である。リプレッサーが不活化されると,大腸菌の中でウイルスの増殖が始まり,宿主は破壊される。このような例をみてわかるように,リプレッサーは遺伝子の発現が不必要なときにはその発現を抑制し,逆に必要になったときには抑制解除を行う。リプレッサーはそれが関与する遺伝子群に特異的であり,ラクトース分解系遺伝子群の発現を調節するリプレッサーは,λファージの増殖抑制をするリプレッサーとは異なるタンパク質である。しかしすべてのリプレッサーはDNAと結合する性質をもっており,そのために立体構造に強い類似性があることが明らかになってきている。高等生物においても,大腸菌で明らかにされたようなリプレッサーが存在する可能性はあるがよくわかっていない。
遺伝情報
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化学辞典 第2版 「リプレッサー」の解説

リプレッサー
リプレッサー
repressor

DNA上の特定領域(オペレーター)に結合し,その下流にある遺伝子の転写を抑えるタンパク質.微生物の遺伝子発現を外界の栄養物などに合わせて調節するための仕組みである.糖やアミノ酸を結合するとDNAに結合するものとその逆のものとがある.たとえば,ラクトースの利用にかかわる遺伝子群(ラクトースオペロン)は,ラクトースがないときはリプレッサーによって発現が抑制されているが,ラクトースがあるとそれがリプレッサーに結合し,リプレッサーがDNAから離れるので,転写がはじまりラクトースが利用できるようになる.また,アミノ酸などの素材を必要以上につくらないためにも有用な調節系である.たとえば,トリプトファンが余分にあるときはトリプトファン合成酵素群の発現を抑える必要があるが,このときはトリプトファンを結合したリプレッサーが,上記とは逆に,トリプトファンオペロンに結合し,転写を抑制する.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リプレッサー」の意味・わかりやすい解説

リプレッサー
repressor

遺伝子の形質発現を調節する制御蛋白質。調節遺伝子の遺伝暗号に基づいて合成され,他の遺伝子のスイッチ役をするオペレーターに特異的に結合して,遺伝子が読取られてメッセンジャー RNAが合成されるのを抑制する。誘導的調節 (たとえばβ-ガラクトシダーゼ) の場合には,リプレッサーそのものがオペレーターに結合するが,誘導物質 (ラクトースなど) が存在するとこれがリプレッサーと結合して,オペレーターへの結合を妨げる。反対に抑制的調節の場合 (たとえばヒスチジン合成酵素系) には,リプレッサー単独ではオペレーターに結合できないので遺伝子による酵素合成が進み,抑制物質 (終産物であるヒスチジン) が過剰に生じて細胞内に存在するようになると,これとリプレッサーとの結合物が,オペレーターとの結合力を得る。ラクトース酵素系のリプレッサーなどいくつかの場合には,物質としての精製が進み,蛋白質としての一次構造やサブユニット構造も判明しつつある。

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百科事典マイペディア 「リプレッサー」の意味・わかりやすい解説

リプレッサー

遺伝子発現の制御にかかわるタンパク質の総称。DNAと結合して特定の遺伝子の発現を抑制する。しかし,他の特定のタンパク質とも結合する部位をもち,そのタンパク質と結合するとリプレッサーは不活性化され,遺伝子の正常な発現が行われる。大腸菌ではいくつかの遺伝子に関してリプレッサーの作用機序が明らかにされている。
→関連項目プロファージ

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栄養・生化学辞典 「リプレッサー」の解説

リプレッサー

 オペレーターが制御する調節遺伝子に作用して遺伝子の転写を抑制するタンパク質.

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世界大百科事典(旧版)内のリプレッサーの言及

【DNA】より

…(3)転写酵素(RNAポリメラーゼ)は,調節部位のうちプロモーターpromoterと呼ばれる部位を認識し,その下流(3′末端側)のある地点より,DNAと対応する塩基配列をもつmRNAを5′末端から3′末端の向きに合成する。(4)しかし転写が行われるためには,ほかにDNAのプロモーター部位にキャップ(CAP)タンパク質が結合しており,オペレーター部位にリプレッサーrepressorというタンパク質が結合していないことが条件である。培地にブドウ糖(グルコース)が存在するとキャップタンパク質は失活し,乳糖(ラクトース)が存在するとリプレッサーが失活するので,ブドウ糖が存在せず乳糖が存在するときのみ転写は行われる。…

【DNA】より

…(3)転写酵素(RNAポリメラーゼ)は,調節部位のうちプロモーターpromoterと呼ばれる部位を認識し,その下流(3′末端側)のある地点より,DNAと対応する塩基配列をもつmRNAを5′末端から3′末端の向きに合成する。(4)しかし転写が行われるためには,ほかにDNAのプロモーター部位にキャップ(CAP)タンパク質が結合しており,オペレーター部位にリプレッサーrepressorというタンパク質が結合していないことが条件である。培地にブドウ糖(グルコース)が存在するとキャップタンパク質は失活し,乳糖(ラクトース)が存在するとリプレッサーが失活するので,ブドウ糖が存在せず乳糖が存在するときのみ転写は行われる。…

【誘導酵素】より

…環境中にラクトースが存在しないときには,これらの酵素はほとんど合成されず,ラクトースがあると合成量が著しく増加する。前者の場合,リプレッサーと呼ばれるタンパク質がβ‐ガラクトシダーゼなどの遺伝子発現を抑制しているが,ラクトースが環境中に存在する場合,ラクトースとリプレッサーが結合し遺伝子転写の抑制が解除される。これを酵素の誘導といい,ラクトースのような物質を誘導物質inducerと呼ぶ。…

※「リプレッサー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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