イクバール(その他表記)Muḥammad Iqbāl

改訂新版 世界大百科事典 「イクバール」の意味・わかりやすい解説

イクバール
Muḥammad Iqbāl
生没年:1877-1938

現代インド・ムスリムの偉大な詩人思想家。パンジャーブ生れ。ラホールで大学教育を受け,教職に携わった後,1905年渡英し,ヘーゲル,ニーチェなど西欧近代思想を学び,同時に弁護士の資格を獲得した。このころウルドゥー語ペルシア語詩作を始め,イスラムの思想を詩にうたい,またパン・イスラム主義思想にも関心をもった。《自我の秘密》(1915)をはじめとする幾つかの詩集は,インド・ムスリムの学生やインテリ層に多大な影響を及ぼした。20年代半ばから政治活動に関係し,ムスリム世論の組織化に努めた。30年のムスリム連盟アラーハーバード大会の議長を務め,その演説でムスリム多住地域を合併して単一の国家を成立させるという構想を打ち出した。当時これは重大な問題として取り上げられなかったが,40年代以降の重要な争点となるパキスタン構想の直接の先駆である。独立後のパキスタンでも国家的詩人として敬われた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イクバール」の意味・わかりやすい解説

イクバール
いくばーる
Sir Muhammad Iqbāl
(1877―1938)

インドの詩人、思想家。パンジャーブ州のシアールコットに生まれる。ラホールで大学教育を終え、ヨーロッパに留学、法律と哲学の学位を得る。1908年に帰国後、大学教授を経て弁護士の職につく。彼の思想にはニーチェ、ベルクソンらの西洋哲学の影響が強い。1930年にムスリム連盟のアラハバード大会で議長を務めるなど政治面でも活躍。とくにパキスタンでは、建国の思想的指導者として国民の絶大な尊敬を集めている。ウルドゥー語、ペルシア語による多数の詩集のほか、『イスラムにおける宗教思想の再建』(1930)など英語で書かれた著書も多い。

鈴木 斌 2016年10月19日]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「イクバール」の解説

イクバール
Mohammad Iqbal

1877~1938

インド・ムスリムの詩人,思想家。パンジャーブ出身。愛国詩を書くウルドゥー詩人として出発。1905年,イギリスに留学しニーチェなどから影響を受けた。帰国後はパン・イスラーム主義に傾斜し,ペルシア語を中心に詩を書くようになった。独自の思想を盛り込んだ詩集『自我の秘密』(1915年)で文名を確立した。20年代半ばから政治活動に入り,30年のムスリム連盟アラーハーバード大会で議長を務め,北西インドにムスリム統合国家を形成する構想を示した。これはのちのパキスタン案の原型とされる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イクバール」の意味・わかりやすい解説

イクバール
'Iqbāl, Sir Muḥammad

[生]1877.11.9. シアルコート
[没]1938.4.21. ラホール
インドの詩人,哲学者。熱心なムスリムの家庭に生れ,ラホール大学を卒業後ケンブリッジ,ミュンヘン両大学で哲学を学ぶ。特にニーチェとベルグソンから影響を受け,イランの神秘主義に関する研究で学位を得た。帰国後,弁護士を開業するかたわらペルシア語とウルドゥー語の詩を多数発表。その後政治の分野に参加し,1930年ムスリム連盟年次大会の議長に選ばれた際,就任演説でムスリム多住地域を合併して単一国家を打立てる構想を明らかにしたが,これはパキスタン建国によって実現した。主著に『自我の秘密』'Asrār-e khūdī(1915) など。

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世界大百科事典(旧版)内のイクバールの言及

【インド哲学】より

…彼らのなかで重要な役割を演じたのは,ラーマクリシュナの弟子で,ラーマクリシュナ・ミッションを設立したビベーカーナンダ,近代インドの生んだ最大の思想家といわれるオーロビンド・ゴーシュ,真理の把持と非暴力の実践を通じてインド独立に専念したマハトマ・ガンディー,詩人として著名なタゴール,西洋哲学との比較を念頭におきながらインド哲学の究明に尽力したラーダークリシュナンらであった。イスラムではムハンマド・イクバールが,行動主義を説き,自我の開発と強化を力説して,1920年代のムスリム知識階級に自信と勇気を与え,パキスタン建国の運動への道を開いた。【前田 専学】。…

※「イクバール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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