いさ(読み)イサ

デジタル大辞泉 「いさ」の意味・読み・例文・類語

いさ

[副]
(あとに「知らず」の意の語句を伴って)さあどうだか。
「人は―心も知らずふるさとは花ぞ昔の香に匂ひける」〈古今・春上〉
(「知らず」を含んだ意で用いる)さあどうだかわからない。
「人は―我はなき名の惜しければ昔も今も知らずとを言はむ」〈古今・恋三〉
(あとに打消しや逆接の語を伴って)どうも。どうせ。
「契りおく心の末はいさや川―頼まれぬ瀬々のあだ波」〈続後拾遺・恋二〉
[感]
明確に答えられない場合の応答に用いる語。さあ、どうだか。
「―、殿上などにやおはしますらむ」〈大和・一七一〉
軽く否定する場合の応答に用いる語。いや。でも。
「―、人の憎しと思ひたりしがまた憎くおぼえ侍りしかば、といらへ聞こゆ」〈・一四三〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「いさ」の意味・読み・例文・類語

いさ

  1. [ 1 ] 〘 感動詞 〙
    1. よくわからないこと、答えかねることをたずねられた時に、返事をあいまいにするための、さしあたっての応答のことば。さあ。ええと。いやなに。どうだか。
      1. [初出の実例]「犬上の鳥籠(とこ)の山なる不知也河(いさやがは)不知(いさ)とを聞こせ吾が名告(の)らすな」(出典万葉集(8C後)一一・二七一〇)
      2. 「何の名ぞ、落窪は、と言へば、女いみじくはづかしくて、いさ、といらふ」(出典:落窪物語(10C後)一)
    2. 肯定しがたく承服しがたいことを言われた時に、相手の発言を否定するための応答のことば。「いさとよ」という形をとることの方が多い。いいえ。でも。だって。→いさとよ
      1. [初出の実例]「人々、いと、かたはら痛し、と思ひて、あなかま、ときこゆ。いさ、見しかば心地のあしさなぐさみき、と宣ひしかばぞかし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
  2. [ 2 ] 〘 副詞 〙
    1. 下に「知らず」の意の語を伴って用いる。さて(わからない)。どうだか(知らない)。→いさや
      1. [初出の実例]「人はいさ心もしらずふるさとは花ぞむかしのかににほひける〈紀貫之〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・四二)
    2. 下に否定的な表現を伴って用いる。どうも(…できない)。とても(…しがたい)。どうせ(…したところで)。
      1. [初出の実例]「無名のみたつの市とは騒げどもいさまた人をうる由もなし〈柿本人麻呂〉」(出典:拾遺和歌集(1005‐07頃か)恋二・七〇〇)
    3. 「知らず」の意味を含ませて用いる。さあどうだか知らない。わからない。上代、「に」を伴っても用いた。→いさに
      1. [初出の実例]「人はいさ我はなき名の惜しければ昔も今も知らずとを言はむ〈在原元方〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋三・六三〇)

いさの語誌

( 1 )本来は相手の発言をさえぎる[ 一 ]のような応答詞であったのだろうが、否定の気持が発展して[ 一 ]のような、「いな」に近い応答詞となり、また[ 二 ]のような副詞となる。
( 2 )形のよく似た感動詞に、勧誘などを表わす「いざ」があり、「いさ知らず」などは、好んで使われるうちに「いざ知らず」ともいうようになり、「いさ」は「いざ」に混同されるようになる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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