日本大百科全書(ニッポニカ) 「イボン石」の意味・わかりやすい解説
イボン石
いぼんせき
hibonite
複酸化鉱物の一種。1956年に発見された。CaAl12O19という合成物質と同構造である。同じく同構造のマグネトプルムバイトmagnetoplumbite(化学式PbFe3+12O19)という種が古くから知られており、この種が構成する系の一つに加えられた。自形は六角板状あるいは単柱状のものと、かなり先のとがった六角複錐(ふくすい)になるものとがある。比較的高度の広域変成作用を受けた不純石灰岩、輝岩、片麻岩などの中に産し、比較的ケイ酸分に乏しい組合せをつくる。また炭素質球顆隕石(きゅうかいんせき)中の包有物として産する。日本では未報告。
共存鉱物は、灰長石成分に富む斜長石、コランダム、苦土尖晶石(せんしょうせき)、チタン石、方トリウム鉱、灰礬(かいばん)ざくろ石、斜灰簾石(しゃかいれんせき)、ベスブ石、紅柱石、藍晶石(らんしょうせき)、透輝石、磁鉄鉱、金紅石などのほか、2011年に記載された隕石中の新鉱物クロト石krotite(CaAl2O4)の共存鉱物としても確認された。同定は第一印象がコランダムに近いことによる。コランダムとの違いが最初に判明したのは、その中に少量含まれるトリウムによる放射能の存在であった。ただ全体としてやや色が濃く、条痕(じょうこん)はコランダムの純白というよりやや褐色を帯びている。命名は最初に本鉱物の異常性を発見したフランス人の探鉱家ポール・イボンPaul Hibonにちなむ。
[加藤 昭 2015年12月14日]