イム・グォンテク(読み)いむぐぉんてく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イム・グォンテク」の意味・わかりやすい解説

イム・グォンテク
いむぐぉんてく / 林權澤
(1936― )

韓国の映画監督。5月2日、全羅南道(ぜんらなんどう/チョルラナムド)長城(チャンソン)の生まれ。朝鮮戦争中に17歳で家を出て、釜山(ふざん/プサン)の国際市場で靴の修繕などをしていたところ、休戦後の映画ブームで靴業界が映画への投資を始め、その伝手(つて)によりソウルの撮影所で小道具や照明の助手として働く。鄭昌和(チョンチャンファ)(1928― )監督の優秀な助監督として認められ、1962年に戦争映画豆満江(トマンカン)よさらば』で監督デビュー。1960~1970年代には、戦争ものをはじめとして娯楽映画を量産する。1973年の『雑草』から作家意識に目覚めたとされ、日本支配下の創氏改名を扱った梶山李之(かじやまとしゆき)(1930―1975)原作の『族譜』(1978)、僧侶が求道者として苦悩する宗教的テーマの『曼陀羅(まんだら)』(1981)などで国際的にも注目される。1980年代以降は文芸作品や歴史大作、韓国の伝統文化を扱った秀作を次々と発表し、名実ともに韓国を代表する監督となる。総作品数は100本を超え、『キルソドム』(1985)、『シバジ』(1986)、『将軍息子』(1990)、『風の丘を越えて 西便制(ソピョンジェ)』(1993)、『太白山脈』(1994)、『春香伝』(2000)など、その多くが日本でも上映されている。2011年に新作『月の光を汲みあげる』を発表した。

[石坂健治]

資料 監督作品一覧

豆満江(トマンカン)よさらば Dumanganga jal itgeola(1962)
雑草 Japcho(1973)
族譜〈族譜〉 Jokbo(1978)
曼陀羅〈曼陀羅〉 Mandala(1981)
キルソドム Gilsoddeum(1985)
シバジ Sibaji(1986)
アダダ Adada(1987)
波羅羯諦 ハラギャティ〈波羅羯諦〉 Aje aje bara aje(1989)
将軍の息子〈将軍〉 Janggunui adeul(1990)
風の丘を越えて 西便制(ソピョンジェ)〈西便制〉 Seopyeonje(1993)
太白山脈〈太白山脈〉 Taebek sanmaek(1994)
祝祭〈祝祭〉 Chukje(1996)
春香伝 Chunhyangdyun(2000)
酔画仙 Chihwaseon(2002)
下流人生 愛こそすべて Haryu insaeng(2004)
月の光を汲みあげる Dal-bit gil-eo-ol-li-gi(2011)

『佐藤忠男著『韓国映画の精神――林権澤とその時代』(2000・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

現代外国人名録2016 「イム・グォンテク」の解説

イム・グォンテク
林 権沢
Im Kwon-taek

職業・肩書
映画監督

国籍
韓国

生年月日
1936年5月2日

出生地
朝鮮・全羅南道長城(韓国)

学歴
スンイル高(光州)卒

資格
韓国芸術院協会員〔2002年〕

受賞
韓国演劇映画芸術賞,大鐘賞,アジア太平洋映画祭最優秀作品賞・監督賞〔1987年〕「シバジ」,上海国際映画祭監督賞(第1回)〔1993年〕「西便制」,福岡アジア文化賞(芸術・文化賞,第8回)〔1997年〕,カンヌ国際映画祭監督賞(第55回)〔2002年〕「酔画仙」,ユネスコ・フェリーニ・ゴールドメダル〔2002年〕,ベルリン国際映画祭名誉賞〔2005年〕

経歴
朝鮮戦争後、たまたま入社した会社が映画製作を始め、小道具、照明助手を経て、鄭昌和監督に師事。1962年「豆満江よ、さらば」で監督デビュー。’83年ベルリン国際映画祭に「曼陀羅」(’81年)を出品以降、国際的にも知られ、’87年には李朝時代の〈代理母〉制度を告発した作品「シバジ」(’86年)がアジア太平洋映画祭で作品賞、監督賞を受賞。’93年の「風の丘を越えて―西便制(ソピョンジェ)」は韓国映画史上初めてソウルの観客動員が100万人を超えた。2000年「春香伝」で韓国映画としては初めてカンヌ国際映画祭コンペ出品を果たし、2002年「酔画仙」で同映画祭監督賞を受賞。2007年100作目の映画「千年鶴」を公開。伝統文化を題材にした美しい映像で知られ、“韓国の溝口健二”とも評されている。他の作品に「雑草」(1973年)、「族譜」(’78年)、「霧の村」(’82年)、「キルソドム」(’85年)、「アダダ」(’87年)、「波羅羯諦(バラギャティー)」(’89年)、「将軍の息子」(’90年)、「太白山脈」(’94年)、「祝祭」(’97年)、「下流人生」(2004年)、「月の光をくみ上げる」(2011年)、「ファジャン」(2015年)など。また、1988年ソウル五輪の劇場用記録映画の総監督を務めた。’98年より東国大学教授。’90年初来日。韓国を代表する映画監督。

出典 日外アソシエーツ「現代外国人名録2016」現代外国人名録2016について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イム・グォンテク」の意味・わかりやすい解説

イム・グォンテク(林権澤)
イム・グォンテク
Im Kwon-taek

[生]1936.5.2. 全羅南,長城
大韓民国 (韓国) の映画監督。『豆満江 (トマンガン) よさらば』 (1962) でデビューし,歴史劇や戦争映画を多数手がける。作家意識が芽生えた『雑草』 (1973) が高く評価されたのち,梶山季之の小説を映画化した問題作『族譜』 (1978) を発表。主作品『曼陀羅』 (1981) 『キルソドム』 (1985) 『シバジ』 (1986) 『風の丘を越えて 西便制 (ソピョンジェ) 』 (1993) 『酔画仙』 (2002) など (→韓国映画 ) 。

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