中国の宗族(そうぞく)の間で作成された家系に関する記録。宗譜,家譜,世譜,家乗などともいわれる。時期的には貴族制時代の六朝・隋・唐代に最初の盛行を見るが,これは家系の良否が一族の政治的社会的地位を決定したからである。そのため各王朝も官僚選出にあたって,国家的な修譜を行ったりした。
しかし唐・宋の変革によって門閥貴族が没落すると,政治的意味あいを持つ族譜の編纂は廃れてしまう。代わって宋以後には,11世紀の欧陽修《欧陽氏譜図》と蘇洵《蘇氏族譜》を初発として,新支配層となった地主・士大夫の手で族譜は盛んに作成された。これらに特徴的なことは,同族意識を持たせるための祠堂記・祭法,相互扶助のための族田に関する規定,族内統制のための族約・家訓,祖先の墓誌銘・芸文等が,新しく盛りこまれていることである。門閥の消滅した宋以後の社会では,地主の秩序維持志向が,族的結合の一手段として族譜の普及をもたらしたといえよう。
執筆者:檀上 寛
中国の制を範として朝鮮でも族譜が編纂されるが,朝鮮で刊行された族譜で現存する最古のものは15世紀までさかのぼる。李朝中期に両班(ヤンバン)のあいだで族譜は急速に普及するが,その背景には,父系血縁観念の浸透とこれに伴う階級や党派の形成,祖先祭祀・相続などの制度の確立があった。姓氏と本貫(一族のおこったとされる地)を同じくする父系親族のうち,有力な人物を派祖とする子孫によって25~30年ごとに編纂される派譜と,すべての派を網羅した大同譜とがある。族譜には,序文につづき,まず一族中傑出した人物の事績や墓碑文,上世代祖先の墓や祖廟の所在図が記載される。その後に始祖から現世代に至るすべての男性成員について名・字・号,出生年と没年月日,官職の経歴,墓所が,配偶者についても姓と本貫などが記される。ただし女性の場合は本人の名は記されず,夫の姓名・本貫と子の名が記されるにすぎない。族譜は祖先の権勢や徳望を具体的に記録して一族の社会的威勢を根拠づけるものであるため,その編纂にはどの氏族もとくに力を注ぎ,有力な氏族の変遷を知る史料として貴重であるが,ときには改ざんされたり,売買もされた。近年になって韓国では,ハングル表記や写真を採り入れた族譜も登場している。
執筆者:伊藤 亜人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一族の系譜を記した家系譜。中国の後漢(ごかん)時代に王室の系譜を記録したのがその嚆矢(こうし)とされる。朝鮮でも高麗(こうらい)時代から編纂(へんさん)されたといわれるが、現存する最古の族譜としては、15世紀につくられた安東権氏の「成化譜」がある。族譜にはまず編纂時の序文や、先祖・顕祖の事跡、行状記、墓碑文、顕祖の墓や祖廟(そびょう)の所在図などが記載され、始祖から現世代に至る一族のすべての男性成員の名、字(あざな)、号、諡号(しごう)、官職、生没年月日、墓の所在地、配偶者の姓と本貫(ほんがん)などが記載される。ただし、女の名は記載されず、嫁ぐと夫の姓名・本貫と、その父や顕祖、子の名が記されるだけの、徹底した男系中心の記録である。族譜は現代でこそだれでもつくってもてるが、封建社会では両班(ヤンバン)氏族しかもつことができず、いわば両班の証書のようなもので、これがないと常民に転落、兵役なども負わされることから、李朝(りちょう)中期以後、族譜編纂事業に一段と拍車がかかった。族譜には、始祖から現世代に至るまでの一族を網羅した大同譜と、有力な人物を派祖とする一派を単位として編纂される派譜とがある。大同譜の編纂は大掛りで、大氏族の場合ほとんど不可能に近く、したがって30~40年ごとに編纂される派譜が主であるが、始祖までの系譜と各派間の系統は明らかにされなければならない。族譜が両班の表徴といわれるだけに、両班志向の強い社会的風潮のなかで、いまも編纂事業は盛んに行われ、写真を入れるなどさまざまなくふうも試みられている。
[尹 學 準]
『尹學準著『オンドル夜話』(中公新書)』
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…門中の始祖から代々その後継ぎとなってきた家(長男の系統)を宗家(チョンガchongga),その当主を宗孫(チョンソンchongson)と呼ぶが,これは門中の象徴的中心である。
[本貫,族譜,門中]
出自(同一の祖先の子孫であること)を示すのが姓と本貫である。朝鮮の姓は約260種類と限られているが,多くの姓はさらに系統によっていくつもの氏族に分かれている。…
※「族譜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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