翻訳|tetrodotoxin
フグ毒fugu poisonのこと。フグを食用に供する日本ではフグ毒による中毒死も多く,フグの美味とともにその恐ろしさが〈フグは食いたし命は惜しし〉ということわざにまでなっている。フグ毒の化学的な研究は1909年田原良純によって始められ,毒素にテトロドトキシンと命名された。50年,横尾晃により結晶として単離され,64年,津田恭介,ウッドワードR.B.Woodward,平田義正らの各研究グループによって独立に化学構造が明らかにされた。C11H17O8N3,分子量319.28。主としてフグの卵巣と肝臓に含まれる。クサフグ,ヒガンフグなどではとくに含量が高い。煮ても分解せず,食べると消化管から吸収されて中毒を起こす。その症状は最初に手足のしびれがあり,ついには呼吸筋麻痺のため死に至る。LD50(50%致死量)はマウスで10μg/kg。治療は,人工呼吸を続けながら血圧の維持を図り,代謝によってテトロドトキシンが消失するのを待つ。近年,神経や筋肉などの興奮性組織で興奮(活動電位)が発生するとき,細胞外から細胞膜を通って細胞内へナトリウムイオンNa⁺が流入するが,この流入をテトロドトキシンが阻止するために興奮が伝わらなくなり,中毒することが,楢橋敏夫らの研究から明らかとなった。興奮性細胞膜にあるNa⁺の通路を外側からふさぐものと考えられる。この作用は,医学や生物学の各種の研究に利用されている。テトロドトキシンの特異的な拮抗薬はまだ知られていない。テトロドトキシンの存在はフグだけに限らず,最近ではカリフォルニアイモリTaricha torosa,ツムギハゼGobius criniger(奄美大島以南産の毒ハゼ),ヒョウモンダコOctopus maculosus(オーストラリア沿岸産)などにもあることが知られている。
執筆者:粕谷 豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アルカロイド系の毒素。化学式C11H17N3O8で表される。フグ毒としてもっとも有名な毒素で、フグの卵巣および一部肝臓にも含まれる毒の主要成分。フグの種によっては皮に強い毒力をもつものもある。
フグの学名はテトロドンであり、その毒成分(トキシン)の意味から、日本の薬学者田原良純(たわらよしずみ)によって1912年(大正1)にテトロドトキシンと命名された。神経毒の一つで筋や神経に作用する。中毒症状は、食後20分から2~3時間ほどの潜伏期間を経て比較的短時間で現れ、口唇や舌および四肢末端のしびれという麻痺(まひ)症状に始まり、これが全身に広がる。重症になれば運動麻痺、さらには呼吸筋の麻痺を引き起こし、呼吸困難に陥って死に至る。
[編集部 2017年3月21日]
C11H17N3O8(319.27).フグ属の魚類,とくにトラフグSpheroides rubripesおよびマフグS.porphyreusの卵巣に存在する猛毒物質.カリフォルニア産のイモリ,ツムギハゼ,コスタリカ産のカエルなどにも含まれている.融点を示さず220 ℃ 以上で着色分解する.-8.64°(希酢酸中).pKa 8.3.有機溶媒に不溶,希酢酸水溶液に可溶.最近(2003~2005年)三つの研究グループにより,D-グルコース誘導体から不斉合成された.神経におけるナトリウムイオン透過阻止作用をもつ.強い神経毒でLD50 10 μg/kg(マウス,腹腔).[CAS 4368-28-9]
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[フグ毒]
フグは数多い魚の中でも特別の珍味とされているが,ときにはこれを食べて中毒を起こし,死に至ることがある。この毒は田原良純により初めて卵巣から抽出され(1912),テトラドトキシン(現在はテトロドトキシンtetrodotoxin)と命名されたが,その後津田恭介によりC12H19O9N3なる分子式ときわめて特異な構造式が明らかにされた(1962)。これは一種の神経毒で,知覚および運動の麻痺を起こし,重症の場合は呼吸麻痺により死に至る。…
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[フグ]
日本の動物性自然毒中毒の大半を占め,死亡率も約50%と高い。毒の本体はテトロドトキシンで,15μg/kgの皮下注射でマウスを殺す猛毒である。アルカリ性では不安定であるが,中性ないし弱酸性では加熱してもかなり安定である。…
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[フグ毒]
フグは数多い魚の中でも特別の珍味とされているが,ときにはこれを食べて中毒を起こし,死に至ることがある。この毒は田原良純により初めて卵巣から抽出され(1912),テトラドトキシン(現在はテトロドトキシンtetrodotoxin)と命名されたが,その後津田恭介によりC12H19O9N3なる分子式ときわめて特異な構造式が明らかにされた(1962)。これは一種の神経毒で,知覚および運動の麻痺を起こし,重症の場合は呼吸麻痺により死に至る。…
※「テトロドトキシン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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