日本大百科全書(ニッポニカ) 「インスタントコーヒー」の意味・わかりやすい解説
インスタントコーヒー
いんすたんとこーひー
コーヒー抽出液の成分を脱水粉末化したもので、湯や水を注ぐと容易に溶けてコーヒーが楽しめる即席コーヒー。アメリカにおけるインスタントコーヒーの規格は、水分3%以下、カフェイン3.6%以上、炭水化物はブドウ糖で35%以下の成分組成を有し、熱湯や水によく溶け、沈殿や混濁を生じないことと定めている。
インスタントコーヒーの歴史は浅く、初めてコーヒー抽出液からコーヒー成分の粉末化が試みられたのは19世紀末で、アメリカ人のゲイル・ボードンによって試作されたが実用化するに至っていなかった。その後1900年代初めにアメリカにおいて、日本人がドラム乾燥法によって粉末コーヒーをつくり、ソルブルコーヒーの名称で売り出した。しかし、製法が拙劣で、味や香りがレギュラーコーヒーに比べてかなり劣っていたため、消費者の関心をよぶに至らなかった。本格的なインスタントコーヒーは、1946年にマクスウェル社の噴霧乾燥法によって開発された。それによって以前に比べて著しく品質の改善されたコーヒー成分の粉末化が完成し、急速にインスタントコーヒーの消費が増加した。しかし、当時の製法をもってしても、コーヒーの嗜好(しこう)成分中でもっとも重要な役割をもつ、香りをとどめるまでの技術が完成されなかったため、レギュラーコーヒーに比べてもの足りなさがあった。ある程度の香りを保持し、味の優れたインスタントコーヒーの開発がされたのは1951年で、その歴史は浅い。その後70年代には真空冷凍乾燥法による製法が実用化し、香りや味が大いに改善されたが、嗜好の点で手数をかけたレギュラーコーヒーに比べもの足りなさが残り、インスタントコーヒーの消費の増加は鈍化している。
日本におけるインスタントコーヒーの普及は第二次世界大戦以降で、アメリカの駐留軍によって紹介された。それまでコーヒーは、複雑な配合や入れ方がたいへんなため、一般家庭の嗜好飲料としてはなじまなかった。しかし熱湯を注ぐだけで手軽に家庭で楽しめるインスタントコーヒーの紹介によって、コーヒーが家庭の飲み物として広まった。さらに1961年(昭和36)に輸入が自由化し、それ以降インスタントコーヒーブームを招いた。しかし供給面では、外国の技術を導入して国産品が出現しているが、価格の面で外国品をしのぐに至らず、大部分を輸入に依存している。
[西山喜一]