日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウィッツ」の意味・わかりやすい解説
ウィッツ
うぃっつ
Konrad Witz
(1400ころ―1445ころ)
ドイツの画家。ロットワイルに生まれ、1431年以後バーゼルに住み、同地で没した。1434年同地の画家組合のメンバーとなった。伝記的な事実については不明な部分が多いが、作品研究によって15世紀ドイツ絵画のもっとも偉大な一人に数えられる。初めフランドル絵画を、おそらくファン・アイク兄弟およびフレマールの画家の作品について学んだのではないかと推定される。対象の材質感を即物的に描写することにかけては抜群の手腕を発揮し、また『マリアへのお告げ』(ゲルマン国立美術館)のように人物を三次元の空間のなかでとらえることでは、当時のドイツ絵画で他の追随を許さなかった。宗教画の登場人物にみるすばらしい造形性は、主題の理想を失うことなくゴシック様式を克服している。代表作『ペトロの魚取り』(1444年。ジュネーブ博物館)には、この特色がいかんなく発揮され、水の中の光の屈折まで即物的に描写されている。またこの作品では、背景をなす風景がすばらしく活写され、風景画という新しいジャンルの独立が間近いことを予感させる。彼はドイツ絵画に新しい世紀の到来を告げた画家として記憶される。
[野村太郎]