ドイツ絵画の一派。8~10世紀にかけてのカロリング朝,オットー朝時代のミニアチュールの一派をさすこともあるが,一般的には14~15世紀にケルンを中心に活躍した一群の画家をさす。その大半は無名画家であるが,その中では15世紀初頭に活躍した〈聖女ベロニカの画家Meister der heiligen Veronika〉が広く知られている。《聖布をもつ聖女ベロニカ》にちなんで命名されたこの画家の現存作品は多くはないが,流れるような優美な曲線を生かしたその作風は,当時のいわゆる国際ゴシック様式のドイツ版ともいうべき〈ソフト・スタイルweicher Stil〉を代表し,またそこに漂う温かい人間味と敬虔(けいけん)な宗教性も,ケルン派の特色をよく示している。彼のあとを受けたロホナーはボーデン湖畔の出身であるが,おそらく1430年ころケルンに定住し,ケルン派の代表的画家となった。ネーデルラント旅行の途上デューラーが称賛した《三博士の参拝》(ケルン大聖堂)や《最後の審判》,47年の年記のある《キリストの神殿における奉献》など,多数の人物を配した祭壇画で知られるが,いずれもバックには金地を用いており,同時代イタリアのマサッチョなどに比して,遠近法的な空間表現や人物表現などの点において,ゴシック的装飾性とプリミティブな要素を多分に残している。ケルンは地理的にネーデルラントに近いこともあって,ロホナーの死んだ51年にはファン・デル・ウェイデンが同地の教会に祭壇画を描くなど,時代が下るにつれて自然主義的なネーデルラント絵画の影響が強まっていった。しかし,デューラー以前の後期ゴシックのドイツ絵画を語る上では欠かすことのできない一派である。ケルン派の存在は長らく忘れられていたが,19世紀初めに一部のロマン主義者,とりわけ批評家のF.シュレーゲルとコレクターのボアスレー兄弟(Sulpiz Boisserée,Melchior Boisserée)によって再発見され,高い評価を得ている。
執筆者:千足 伸行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…イギリス王リチャード2世の小祭壇画や,フランス王ジャン(善良公)の肖像画が,当時の宮廷画家の画風をよく伝えている。ドイツの板絵は各地方に多様な発達をし,プラハ,ウィーンはイタリアの影響をうけ,国際ゴシック様式の系統をとり,ケルン派は14世紀に甘美な画風をもってあらわれ,15世紀にロホナーのような大画家を生む。ハンザ同盟諸市は民衆的な率直な画風をむかえ,14世紀から15世紀初めにハンブルクでマイスター・ベルトラムMeister Bertram von Minden(1340ころ‐1415ころ)が名高く,同じころコンラート・フォン・ゾーストKonrad von Soest(1370ころ‐1425ころ)はケルン派の様式をまじえ,マイスター・フランケは国際ゴシック様式に近づいている。…
…教皇庁のあった南フランス,アビニョンを経由してプラハへ伝えられたシエナ派のマルティーニの影響は,14世紀後半のボヘミア絵画の基礎となり,次いでハンブルクへ感化をおよぼしてマイスター・ベルトラムMeister Bertram(1335ころ‐1415)の画面を生む。同じころ西方のパリやブルゴーニュ地方から流入してきた宮廷様式はマイスター・フランケやコンラート・フォン・ゾーストKonrad von Soest(1370ころ‐1425ころ)の優雅な形式に結実し,やがて〈聖ベロニカ〉の画家Meister der hl.Veronika(生没年不詳)やロホナーのケルン派において全盛期を迎える(国際ゴシック様式)。一方南ドイツのモーザーLukas Moser(1390ころ‐?)やウィッツやムルチャーHans Multscher(1400ころ‐67)には忠実な自然の観察がみられ,新時代到来の間近さを感じさせる。…
…ボーデン湖畔のメールスブルクの生れと考えられる。1430年ころケルンに移り,いわゆるケルン派の代表的な画家となる。ケルン派の最高傑作とされる《三王礼拝図》を中央パネルにもつ三連祭壇画(1440ころ,ケルン大聖堂)は,厳格で荘重な左右相称の構図を示すが,細部においてはネーデルラント絵画の影響を思わせる自然主義的な描写が目だつ。…
※「ケルン派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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