日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウェスタン・ユニオン」の意味・わかりやすい解説
ウェスタン・ユニオン
うぇすたんゆにおん
Western Union Corp.
かつて独占的な地位にあったアメリカ最大の電信会社ウェスタン・ユニオン・テレグラフWestern Union Telegraph Co.の持株会社。1980年代の組織解体を経て、一時、情報処理サービス会社ファースト・データFirst Data Corp.の傘下に入り、国際的な電子送金サービスを中心に事業を行っていたが、2006年に分離し、独立会社として、引き続き同じ事業を行っている。
[奥村皓一]
前史
1851年ロチェスターに設立された電報会社New York and Mississippi Valley Printing Telegraph Co.が起源である。1856年にはアメリカの東部と西部を結ぶ電報会社という意味をもたせてウェスタン・ユニオン・テレグラフと改称した。1861年、南北戦争のさなかにあって、東海岸と西海岸を結ぶ最初の大陸横断の電信網を完成させた。いくつかのライバル電報会社を買収しながら、やがて全米の電信業務を独占するまでになるが、電話の発達とともに旧来の電信業務は衰退する。
ウェスタン・ユニオンは単なる電信会社であることに満足せず、金融情報に目をつけニューヨーク証券取引所の株式速報に着手した(1866)。南北戦争後のアメリカ経済の急成長期(第二次産業革命と大企業や大銀行の生成発展期)のなかで、1871年に送金サービス事業に進出し、これが同社最大の事業部門となった。1884年、ウェスタン・ユニオンは金融サービス銘柄の代表として、ダウ・ジョーンズ平均株価算定の11銘柄の一つに加えられた。
[奥村皓一]
20世紀の発展
大衆消費時代に入った1914年には、最初の消費者向けチャージ・カード(月末払いのクレジットカード)の導入を開始。1923年にテレタイプ(印刷電信)を導入し、同社の支店ネットワークのみならず顧客企業とのタイプ通信網も設けた。1943年最初の商用マイクロ波通信システムを構築した。1958年にテレックスを導入し、消費者間のテレプリンター(印刷電信機)のサービスを導入、1980年代までにアメリカのテレックス・サービス会社の最大手となる。1964年にはアメリカ大陸を横断するマイクロウェーブ網を設置。1970年代初めには郵便公社との提携による電子郵便サービス「メールグラム」を導入して成功を収めた。また1974年にはアメリカ初の国内通信衛星であるウェスター1号を打ち上げている(衛星事業は1980年代に撤退)。
1980年代からは、電話回線を利用してテレックスやパソコンどうしで情報を交換する電子メールのサービス「イージーリンク」を商用化し、この分野で首位となった。電子メールは情報通信時代の花形産業として送金サービスとともに脚光を浴びたがこの分野には、ITT、GE、MCIコミュニケーションズ、GTEなど20社近くが参入し、たちまち競争激化の時代に入った。高速の電子送金システムでは、中小企業・消費者向けも含めて市場の95%近くをウェスタン・ユニオンが独占していたが、シティコープ(後のシティグループの銀行部門)が独自の高速電子送金システムで1987年から新規参入した。シティコープはウェスタン・ユニオンの顧客を勧誘する一方、スーパーマーケットやコンビニエンス・ストアも対象として新規市場を開拓する戦略を開始していた。
[奥村皓一]
組織の解体
通信・金融・コンピュータの巨大企業との大型投資競争と顧客の奪い合いのなかで、ウェスタン・ユニオンは1983年に赤字に転落、1986年の赤字は5億ドルを上回った。翌1987年12月、事実上の倒産である連邦破産法11条の適用申請を免れるべく、ウェスタン・ユニオン・テレグラフをITTの同部門と合体する再建案をまとめ、ジャンクボンド(ハイリスクの高利回り社債)の起債にこぎつけるなど企業解体が進み始めた。
1990年、通信自由化と競争激化のなかで、ウェスタン・ユニオンは通信・電話事業をAT&Tに売却した。電子送金サービスの最大手として残ったウェスタン・ユニオン・ファイナンシャル・サービスも、1994年にクレジットカード支払いサービス大手のファースト・ファイナンシャル・マネジメント(FFM)に買収されたが、そのFFMは1995年10月ファースト・データに合併された。
こうして、ウェスタン・ユニオンはファースト・データの傘下に入り、送金サービスの多国籍企業として存続することになった。2000年にはインターネットを利用した送金サービスを導入した。しかし、2006年9月、ウェスタン・ユニオンはファースト・データから分離され、完全な独立の会社として、国際的な電子送金サービスの事業を行うこととなった。2012年の売上高は56億6480万ドル、純利益10億2590万ドル。代理店数は51万店を超え、200以上の国・地域で活動を行っている。
[奥村皓一]