日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウミウシ」の意味・わかりやすい解説
ウミウシ
うみうし / 海牛
sea slug
軟体動物門腹足綱後鰓亜綱(こうさいあこう)の裸鰓類(らさいるい)に属する動物の総称であるが、似たような外形の側腔類(そくこうるい)、嚢舌類(のうぜつるい)、無腔類(むこうるい)などの後鰓類も含まれる。多くは潮間帯の岩礁にすむが、陸棚帯あたりまでの泥底にいる種もある。広い足で匍匐(ほふく)するが、体をくねらせて泳ぐ種類もある。体はナメクジのように細長い種類が多く、殻を欠いて体表は外套(がいとう)に覆われ、頭部には触角が1対、ときには2対ある。体表は滑らかで鮮やかな色彩があるもの(タテジマウミウシArmina japonicaなど)、蓑(みの)状のえら突起のあるもの(ミノウミウシAeolidiella takanosimensisなど)、樹枝状の突起のあるもの(トゲアメフラシBursatella leachiiなど)がある。また、裸鰓類には、肛門(こうもん)が体の背面の後方にあり、周囲に花冠状の二次えら突起をめぐらしているもの(アオウミウシGlossodoris festivaなど)が多い。これら以外の形をした突起をもつものもあり、はなはだ奇異なものもあるが、体表の突起はほとんどすべてえらの作用をする。ウミウシ類は一般に雌雄同体で、多くの種類は夏に産卵し、淡紅色や淡黄色の美しいリボン状ないし紐(ひも)状の卵塊を岩に産み付ける。生態的にも特色のある種が多く、ヒカリウミウシPlocampherus tilesiiやハナデンシャKalinga ornataは発光する。また終生浮遊生活をするコノハウミウシPhylliroe bucephalaも発光する。アメフラシ類は藻類を食べるが、裸鰓類は肉食性のものが多く、種類によってそれぞれ腔腸動物、コケムシ類、群体ボヤなどを専食する。また、アオミノウミウシGlaucus atlanticusはクダクラゲ類を食べ、その刺胞を背中にあるえら突起の中に蓄えて防御に用いるといわれる。メリベウミウシMelibe vexilliferaには大きな頭巾(ずきん)状に広がる頭部があり、これを投網(とあみ)を打つように広げて水中の微小な生物を食べる。嚢舌類に属するウミウシ類はおもに海藻類から液を吸っている。なかでもナギサノツユ類Oxynoeの1種は、毒のある海藻から取り入れた毒を体内に蓄えて防御に利用している。ウミウシ類にはそれ以外にも、捕食者にとって好ましくないにおいや味あるいは毒性があると思われ、はでな色は警戒色と考えられる。人間生活との関係はほとんどない。
[奥谷喬司]