エゴマ(その他表記)perilla
Perilla frutescens Britton var.japonica Hara

改訂新版 世界大百科事典 「エゴマ」の意味・わかりやすい解説

エゴマ (荏胡麻)
perilla
Perilla frutescens Britton var.japonica Hara

シソ科一年草で,植物学上はシソ変種とされる。エ(荏)あるいはジュウネン(十稔)ともよばれる。茎は高さ約1mになり,横断面は四角形をしている。シソによく似ているが,葉はシソよりもやや大ぶりで,色はふつう緑色である。茎葉には白い毛がある。秋に茎頂と葉腋(ようえき)から多数の花を穂状に咲かせる。花は唇形で,上唇は浅く3裂して上方にそり返り,下唇は深く2裂して内に曲がる。花色は白色。4本のおしべと1本のめしべがある。果実は4個の小分果からなり,各小分果は径2mm内外で,色は灰白色や褐色のものがあり,表面に網状の隆起紋様がある。成熟した分果は脱粒しやすい。インド,中国南部地域原産と考えられ,中国,朝鮮,日本,東南アジアで古くから栽培されていた。種子は46~50%の乾性油を含む。圧搾法で荏油(えのあぶら)perilla oilをとり,食用,工業用とする。油紙,雨傘,ちょうちんなどの防水加工やペイントなどの原料となる。また種子を料理用にし,小鳥の餌にもする。
執筆者: 日本でのエゴマの利用は古く,縄文時代の遺跡からも出土している。中世では多く瀬戸内海沿岸地方に栽培され,社寺公家が多くは灯油として使用した。とくに石清水八幡宮に奉仕する大山崎油座に属する油商人が,鎌倉末期から室町時代にかけて,京都を中心とする畿内近国一帯や山陽,四国地方において,荏油の独占的仕入れ,製造,販売の特権をにぎり繁栄した。江戸時代以降はナタネ,綿実が油の主原料となったため,すっかり衰退した。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エゴマ」の意味・わかりやすい解説

エゴマ
えごま / 荏胡麻
[学] Perilla frutescens Britton var. frutescens

シソ科(APG分類:シソ科)の一年草。エ(荏)、ジュウネン(十念)ともよばれる。植物学上はシソの変種で、シソと交雑が可能である。茎は高さ約1メートルで、白毛があり、横断面は四角形。葉は緑色でシソよりもやや大形で、長さ7~12センチメートル、幅5~8センチメートル。秋に茎頂と葉腋(ようえき)から花穂を出し、白色で小形の唇形花を多数つける。花冠は長さ4~5ミリメートルで、上唇は浅く3裂し、上方に反り返る。下唇は深く2裂して内に曲がる。雄しべは4本。果実は4個の小分果からなり、各小分果は灰白色や褐色で、表面に網状の隆起紋様があり、径約2ミリメートル。成熟した分果は脱粒しやすく、地面にこぼれ落ちる。原産地は東南アジアで、東南アジア、中国、朝鮮、日本で古くから栽培された。本州から九州で野生化している。種子は46~50%の乾性油を含み、これを圧搾法で絞ったものが荏油(えのあぶら)で、リノール酸33%、オレイン酸11%を含み、てんぷら油とするほか、ペイント、ワニス、リノリウム原料、印刷インキなど工業用の需要も多い。昔は合羽(かっぱ)や唐傘(からかさ)、油紙に引いた。菜種油が渡来するまでは、灯火用として重要であった。種子をゴマと同様にすって和(あ)え物などの料理に用い、小鳥の餌(えさ)にもする。葉は焼肉料理の添え物などにする。日本では近年はあまり栽培されないが、旧ソ連諸国、南アフリカでかなり多く栽培されている。

星川清親 2021年8月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エゴマ」の意味・わかりやすい解説

エゴマ(荏胡麻)
エゴマ
Perilla frutescens var. japonica

シソ科の一年草で,東南アジア原産。シソ P. frutescens var. crispaとは同一種内の変種関係とされる。外形もアオジソに似ているが,やや大型で高さ 1mに達し,茎も太く,また茎に白い毛が目立つ。植物体全体に特有の臭気があるが,シソの香りとはかなり違い,人によっては不快臭とされる。花穂はシソに比べて短く,花が密集し,萼はやや大きい。花冠は白くわずかに紫色を帯びる。種子に油を含み,しぼって「荏の油」をとる。この油は食用にはならないが乾性油で桐油と同様油紙やから傘などに用い,また照明用の灯油に使われたこともある。この用途のため古く中国を経て日本に伝えられ,現在でもときに栽培されるが,山の中の湿地などに野生化していることもある。同じく本種と同一種内の別変種とされるものにレモンエゴマ P. frutescens var. citriodoraがあり,これは本州,四国,九州などの山地に自生している。やはりシソに似て角張った茎と対生する葉をもち,全草がレモンに似た香りをもつ。葉質は薄く両面,特に脈上に毛があり,裏面には腺点がある。

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百科事典マイペディア 「エゴマ」の意味・わかりやすい解説

エゴマ(荏胡麻)【エゴマ】

シソ科の一年草。荏(え)・十稔(じゅうねん)ともいい,種子は油を多く含む。シソの変種で,シソに似ているが,やや大きく茎葉には白毛がある。高さ0.6〜1.5m,夏,多数の白花を穂状につける。種子はシソよりやや大きく,秋に収穫。種子からとれる油であるエゴマ油(荏胡麻油)はかつて社寺や公家が灯油として利用。鎌倉末から室町時代にかけて,大山崎(おおやまざき)離宮八幡(りきゅうはちまん)宮に所属する神人が大山崎油座(あぶらざ)を結成,主産地の瀬戸内海沿岸地帯からの仕入れ,製造,販売を独占して繁栄した。江戸時代以降,油の主原料は菜種・綿実(わたざね)に変わり衰退した。今は日本ではほとんど利用されず,一部で野生化している。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「エゴマ」の解説

えごま[葉茎菜類]

東北地方、宮城県の地域ブランド。
主に加美郡色麻町で生産されている。シソ科の植物で、じゅうねんとも呼ばれる。脂質に含まれる
α-リノレン酸は、がん抑制や抗アレルギー作用をもち、健康食品として注目されている。油の原料にもなる。最近ではえごま油のほか、煎餅やクッキーなども販売されている。

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栄養・生化学辞典 「エゴマ」の解説

エゴマ

 [Perilla frutescens].シソ目シソ科シソ属の一年草.種子から油(エゴマ油)をとる.

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世界大百科事典(旧版)内のエゴマの言及

【シソ(紫蘇)】より

…芽,穂,葉を利用するシソ科の一年草(イラスト)。原産はヒマラヤ,ミャンマーおよび中国で,中国南部で栽培化されたと推定されるが,東洋の温帯地域には広く野生化している。日本に古くから伝わって野生化もしている。全草に芳香を有し,高さ数十cmになる。四角柱形の茎は上部でよく分枝する。葉は長柄があり,毛が少なく卵形で鋭い鋸歯がある。初秋,頂端や枝端の総状花序にやや一方に偏して小さな花を多数つける(イラスト)。…

【大山崎油座】より

…現在の離宮八幡宮に油座関係文書である《離宮八幡宮文書》が所蔵されている。それによると,1222年(貞応1)のものが初見であるが,《明月記》正治2年(1200)の条に藤原定家が山崎の油売の小屋に宿泊したことが見え,平安時代後期の作とされる《信貴山縁起絵巻》飛倉の巻は,校倉に米俵を多く蓄え,問丸の業務を務め,油搾りの締木とかまどを持ち,エゴマ油を製造販売する〈石清水八幡宮の大山崎住神人〉である〈山崎長者〉の姿を伝えている。したがって大山崎油神人の活動は平安時代後期にまでさかのぼると思われるが,油座としての名称が史料に見えるのは,1582年(天正10)7月の〈羽柴秀吉条々〉(《離宮八幡宮文書》)が最初である。…

【シソ(紫蘇)】より

…シソの精油成分は殺菌力を有し,葉,種子,茎など全体が風邪,咳止め,消化促進など漢方薬でさまざまに利用されている。同一種に種子から乾性油をとるエゴマがある。エゴマは精油成分が少し異なり食用にはされない。…

※「エゴマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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