日本大百科全書(ニッポニカ) 「おかあさん」の意味・わかりやすい解説
おかあさん
日本映画。1952年(昭和27)、成瀬巳喜男(なるせみきお)監督。戦災で失ったクリーニング店をふたたび開店させた福原家。長男と夫の死にみまわれ、夫の弟子と店の切り盛りをする主人公正子(田中絹代)の日常が、長女(香川京子(かがわきょうこ)、1931― )のナレーションとともに描かれる。病で死ぬ長男と夫、経済的事情で里子に出される次女、そして将来の長女の結婚というように、時の経過によって構成員を喪失していくという家族のもつ宿命が描かれる。その一方で、妹の子を引き取って育てる主人公、主人公のために献身的に働く夫の弟子というように、救済の暖かさが描かれている。そうした庶民のドラマを成瀬は静かな視点で描き、それが作品を現実味のあるものにしている。
[石塚洋史]
『『世界の映画作家31 日本映画史』(1976・キネマ旬報社)』▽『佐藤忠男著『日本映画史2』増補版(2006・岩波書店)』▽『猪俣勝人・田山力哉著『日本映画作家全史 上』(社会思想社・現代教養文庫)』