日本大百科全書(ニッポニカ) 「おとり猟」の意味・わかりやすい解説
おとり猟
おとりりょう
鳥獣を捕獲する猟法の一種。生きている鳥獣、剥製(はくせい)、模型などを使って獲物を誘い、網、銃器その他の猟具で捕獲する狩猟。以前は「とりもち」も使用されていたが、1947年(昭和22)から禁止されている。おとり(囮)という語は、招鳥(おきどり)の転訛(てんか)したものといわれるが、現在では鳥に限らず、広く目的物を誘引する手段を意味している。
おとり猟はおもに鳥類の捕獲に対して行われ、獣類ではまれにクマ、サル猟などで応用される。生きたおとりは生きおとり、ほかは型(かた)おとりという。生きおとりは獲物を安心させるほか、鳴かせたり、餌(えさ)をついばんだりさせて関心をもたせ、積極的に獲物を呼び寄せるので、型おとりより効果が大きい。また、食物となる鳥獣をおとりにして誘う場合もある。おとり猟は多種の獲物の捕獲に応用できるが、現在もっとも多く行われるのはカモ猟とスズメ猟で、このほかキジバト、ガン、チドリ、ツグミ類、マヒワその他の小鳥類、ハヤブサなどの捕獲にも使われるが、前記のガン以下の鳥は学術研究など特殊な場合以外、捕獲が許可されていない。
カモ猟での生きおとりは、通常ナキアヒル(マガモとアヒルの雑種)を使い、これを撃ち場の前面に数羽つないで、飛んでくるカモを呼び下ろして銃獲するか、無双(むそう)網でかぶせる。型おとりはラバー、プラスチック、木材などでつくられ、水上に数十個並べて誘う。ときに茶褐色のイヌを使うこともあり、これは赤イヌ猟という。赤イヌ猟は、訓練した赤イヌに岸辺を歩かせると、カモが泳いで近づく性質があるため成立する猟法で、岸に接近したところを銃獲する。スズメ猟では無双網を用い、無双網の近くに稲束などを置き、瞼(まぶた)を縫って盲目にしたスズメをつないで関心を向けさせるほか、小籠(かご)に数十羽のスズメを入れて鳴かせて誘う。このとき、慣らしたカラスの生きおとりを1~2羽網の近くにつなぐこともある。これは、カラスの餌ばみを見て、スズメが安全地帯と思って近寄ってくるので効果がある。キジバト猟は無双網のそばに盲目にしたキジバトをつないで誘う。チドリ猟では多数のチドリの剥製(はくせい)を無双網の前に並べて誘う。ツグミ類、アトリ、カシラダカ、アオジ、マヒワなど秋季渡来する小鳥類には、それぞれの生きおとりを籠に入れ、かすみ網のそばで一斉にさえずらせて誘う。コガラ、シジュウカラ、ヒガラ、ヤマガラ、オオルリなどは、コノハズク、フクロウを林の中につなぎ、その近くに擌(はご)(竹棒などにとりもちを塗ったもの)をかけて誘う。これらの小鳥は日中コノハズクなどを見ると、いきりたって接近してくる。
おとり猟は猟法として著しく効果が高く、とくに生きおとりを使用すると多獲のおそれがあるので、アメリカではカモやガン猟には生きおとりlife decoyの使用を禁止している。
[白井邦彦]