アトリ(読み)あとり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アトリ」の意味・わかりやすい解説

アトリ
あとり / 花鶏
臘子鳥

広義には鳥綱スズメアトリ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。同科Fringillidaeに属する鳥は約120種あり、太い円錐(えんすい)形の嘴(くちばし)をもち、おもに草木の種子を食べるものがほとんどであるが、イスカのように特殊な形の嘴で、もっぱら針葉樹の実を食べる種もある。大きさは、スズメよりやや小さいものから、全長約23センチメートルのイカルぐらいまで多様である。羽色は、雌雄の色が違うものが多い。北アメリカとユーラシアにおもに分布する。オーストラリア大陸には自然分布していなかったが、現在ではゴシキヒワなど3種が移入されて野生化している。繁殖期にはつがいで生活するが、ほかの季節には同種だけの群れをつくることが多い。

 種としてのアトリFringilla montifringillaは、西はスカンジナビアから東はカムチャツカまで、ユーラシアの亜寒帯の森林地帯で夏に繁殖し、冬はヨーロッパから日本まで温帯の森林、畑などに群れで渡ってくる。群れは非常に大きくなることがあり、ピレネー山脈の麓(ふもと)には100万羽を超すアトリが集まるねぐらがある。また日本でも数万羽からなる群れが珍しくなく、『日本書紀』巻29にも、681年(天武9)11月、天を隠して飛んだ大群の記述がある。日本に渡ってくるものはシベリアで繁殖する。針葉樹の枝に巣をかけ、5~7個の卵を産む。冬はおもに脂肪種子を食べるが、夏はおもに昆虫など動物質のものをとる。全長約16センチメートル。雌雄の色は違っていて、雄は頭と背が青色光沢のある黒、胸と肩はオレンジ色、腰と腹は白く、翼と尾は黒い。雌は頭と背が黒い斑(はん)のある褐色である。ただし雄の頭と背の羽にはオレンジ色の縁があり、日本に渡来直後の雄は雌に似た色をしているが、この羽縁はしだいに擦り切れて、美しい青黒色が現れる。日本ではかつて狩猟鳥に指定されていて、毎冬100万羽前後もかすみ網猟によって捕獲され、食用にされていたが、1947年(昭和22)かすみ網猟が法律で禁止されると同時に、ツグミなどとともに狩猟鳥から除かれた。ヨーロッパには同属のズアオアトリF. coelebsが繁殖分布し、林や公園の木に巣をかけ、人々に親しまれている。

[竹下信雄]


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改訂新版 世界大百科事典 「アトリ」の意味・わかりやすい解説

アトリ (花鶏)
brambling
Fringilla montifringilla

スズメ目アトリ科の鳥。全長約16cm,スズメより少し大きい。雌雄異色。雄の夏羽は頭から背にかけてと翼,尾が黒く,のどから胸,肩にかけて濃いオレンジ色,翼に2条の白帯がある。腰は白い。雄の冬羽と雌は頭が灰色,雌は全体が淡い。ユーラシア大陸の高緯度地方の針葉樹林帯で繁殖し,中緯度地方以南へ渡って冬を越す。日本には全国各地に冬鳥として渡来する。餌はおもに針葉樹の球果から種子を抜き取って食べる。山地に雪が降ると低地の水田などに現れ,落穂を拾ったり,雑草の種子を拾う。ほとんどは群れで見られ,よく密集した群れ行動を見せる。ときには大群で現れることがあり,数千羽の大集団を見ることもある。群れがタカ類を擬似攻撃するときは,激しい羽音を立て,密集しては急旋回をする。キョッ,キョッと鳴き,ジーという声を入れる。春の渡りの前には盛んにさえずりあう。アトリ科Fringillidaeは世界で2属125種が知られ,ユーラシア,アフリカ,南アメリカに広く分布していて,オーストラリアには移殖されたものがすんでいる。このうち大部分はヒワフィンチ)の仲間で,ヒワ亜科に属する。アトリ科の鳥はくちばしが大きくなり,はでな色をしたものもいる。すばらしい歌い手が多い。その太短く先が鋭くとがった円錐形のくちばしは,乾いた堅い小粒の種子をつまみとるのに適し,それをすりつぶすために,がんじょうな頭骨,強力なあごの筋肉,砂囊をもっている。アトリ亜科には3種が含まれる。ズアオアトリF.coelebs(英名chaffinch)はヨーロッパの公園や庭園でごくふつうに繁殖している。鳴声もよく,多くの人に親しまれ,ブラウニングの詩や《セルボーン博物誌》など文学作品に登場することも多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アトリ」の意味・わかりやすい解説

アトリ
Fringilla montifringilla; brambling

スズメ目アトリ科。全長 14~16cm。夏羽(→羽衣)の雄は頭部から背が黒く,背の羽毛の縁が茶色。胸,肩は赤褐色で背に向かってとがる黒い筋模様が入る。腹部は白い。風切羽は黒いが,各羽毛の先端側が黄褐色から白で縁どられ縞模様をつくっている。冬羽の雄は雌に似て,夏羽に比べて黄褐色みが強く,はるかに地味である。ヨーロッパ北部からシベリア東部,カムチャツカ半島にかけて繁殖する。スカンジナビア半島西部,南部では留鳥だが,ほかの繁殖地の鳥は越冬のためヨーロッパ南部,北アフリカから中東を経てインド北部,ロシア南東部から東アジアフィリピン北部に渡る。日本には冬鳥(→渡り鳥)として渡来し,山地や平地の疎林や低木林,農耕地などに生息する。冬季はおもに種子食だが,漿果(→液果)も食べ,繁殖期には昆虫類が主食になる。

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百科事典マイペディア 「アトリ」の意味・わかりやすい解説

アトリ

アトリ科の鳥。黄褐色,黒,白の3色斑をもち,翼長9cm。ユーラシア大陸の北部で繁殖し,冬はその南部に渡る。日本には冬鳥として全国に渡来し,山麓の林に群生。著しい大群をなすことがある。草木の種実を食べ,地上にもよく降りる。キョッキョッと鳴く。

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