チドリ(読み)ちどり(英語表記)plover

翻訳|plover

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チドリ」の意味・わかりやすい解説

チドリ
ちどり / 千鳥
plover

鳥綱チドリチドリ科に属する鳥の総称。この科Charadriidaeの仲間は世界中で約60種が知られ、南極大陸を除いて世界的に分布している。温帯、熱帯に留鳥として暮らしているものが多いが、北半球の極地で繁殖するものは長い渡りをする。体はスズメよりやや大きいぐらいのものから、ハト大のものまでいる。雌雄の羽色はほとんど同色、体つきはずんぐりしていて、頭と目が大きいのが一般的特徴である。嘴(くちばし)は短めで、先のほうに膨らみがある。足の指はかなり長めで、ダイゼンを除いて後趾(こうし)がなく、3本指である。大部分は海岸地域や平野にすんでいるが、山地にすむものもいる。採餌(さいじ)は草原や川原、河川、水辺湖沼、海岸などで行い、ミミズ類、昆虫類などを主食とする。採餌の際、すこし歩いては地面をつついて餌(えさ)をとり、また数歩歩いてはつつく。頭を下げたまま採餌するのはシギ類で、チドリ類はそうした動作はしない。巣は荒れ地草地のへこみを使い、小石や枯れ草などを多少敷いて3、4卵を産む。雛(ひな)は孵化(ふか)後数時間で歩くことができる。卵の色は周囲の荒れ地に紛れるように模様がある。

 日本には、ダイゼン、ムナグロ、コバシチドリ、オオメダイチドリ、メダイチドリ、ハジロコチドリ、コチドリ、オオチドリ、イカルチドリシロチドリケリタゲリの12種の記録がある。そのうち、繁殖しているのはイカルチドリ、シロチドリ、コチドリ、ケリ、タゲリの5種である。

 他の近似種として次のようなものがある。フタオビチドリCharadrius vociferusは全長25センチメートル。北アメリカの平原に広く分布している。胸に2本の黒帯をもち、英名となっているkilldeerと聞きなせる声でよく鳴く。ハシマガリチドリAnarhynchus frontalisは全長19.5センチメートル。上面は灰色で下面は白色。約25ミリメートルある嘴は右へ曲がっている。川原で繁殖し、2卵を産む。走るのは速い。

 なお、「千鳥」は俳句の季語としては冬に入れられているが、日本のチドリ類の生態をみると、かならずしもあたってはいないので注意を要する。また、海岸にたくさんの鳥が集まっているようすから「千鳥」とよぶこともありうるが、この場合はチドリ類のみでなく、同様の環境でみられるシギ類をもさしていると思われる。シギ・チドリ類の群れは冬にもみられるが、春と秋の渡りの時期に大きな群れがみられる。

[柳澤紀夫]

文学

『万葉集』から歌材として詠まれ、「近江(あふみ)の海(み)夕波千鳥汝(な)が鳴けば心もしのに古(いにしへ)思ほゆ」(巻3・柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ))などと詠まれている。「友呼ぶ千鳥」や「佐保(さほ)の川原で鳴く千鳥」など、類型としてよく詠まれた。また、「思ひかね妹(いも)がり行けば冬の夜の川風寒(さむ)み千鳥鳴くなり」(『拾遺集(しゅういしゅう)』冬・紀貫之(きのつらゆき))などと詠まれるように、冬の景物となった。「浜千鳥」という形でも多く詠まれ、筆跡・手紙・書物の意に用いられるようにもなった。『枕草子(まくらのそうし)』「鳥は」の段に「いとをかし」と記され、『源氏物語』には「須磨(すま)」「総角(あげまき)」に3例、冬の心象風景としてみえる。冬の季題。

[小町谷照彦]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チドリ」の意味・わかりやすい解説

チドリ
plovers

チドリ目チドリ科のチドリ属 Charadrius やムナグロ属 Pluvialis などの鳥の総称。タゲリ属 Vanellus の鳥もチドリ科であり,チドリといえるが,普通は属名でケリかタゲリと呼ばれる。チドリは一般に小型ないし中型の鳥で,およそ 45種からなる。シギに比べて頭が比較的大きく,頸は短く,全体にずんぐりしており,は短くてじょうぶである。趾(あしゆび)はダイゼンを除くと後趾を欠き,3本である。繁殖期には草地,海岸,河原にすみ,地面のくぼみに産卵する。孵化したは綿羽に覆われ,孵化後数時間で巣を離れる(離巣性)。親鳥は,卵や雛に危険が迫ると,擬傷行動によって害敵の注意をそらす。全世界に広く分布し,日本では 13種が記録されている。そのうち留鳥 3種,繁殖するもの 3種で,ほかは旅鳥(→渡り鳥)である。タゲリ属のケリタゲリは繁殖記録がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報