チドリ

改訂新版 世界大百科事典 「チドリ」の意味・わかりやすい解説

チドリ (千鳥)

チドリ目チドリ科Charadriidaeの鳥の総称。またチドリ科を小型種の多い狭義のチドリ類と大型のケリ類に分けることもある。この科の鳥は全長16~40cm。小型~中型の水辺の鳥で,頭は丸くて大きく,眼も大きい。くちばしは短くて先のほうが少し膨らんでいる。脚は相当長い種もあり,あしゆびは前指3本の種が多い。雌雄同色で小型の種では上面灰褐色で下面は白く,顔や胸に黒い線模様がある。夏羽と冬羽で色彩の違う種では,夏羽では胸が橙色や黒色になる。極地を除いたほぼ世界全域に分布し,冬の条件が悪いところのものは冬暖地へ渡る。海岸や低地の水辺にすみ,繁殖期には雄は自分のなわばりの上を鳴きながら飛び回る。地面に浅いくぼみをつくり,貝殻,小石,小木片,枯草などを敷いて巣とし,1腹3~4卵を産む。雌雄交替で約25日間抱卵する。雛は綿羽に包まれ早成性で,かえって数時間後には親に導かれて巣を離れる。卵や小さな雛に外敵が近づくと親鳥は地上に伏し,翼を広げて動かし,擬傷動作をする。大型の種では繁殖地に侵入したトビやカラス,イヌ,人間に対して鳴きながら急降下して威嚇する。

 繁殖期にもシギ類のように木の枝や杭に止まることはない。地上を歩いて立ち止まり,餌をついばみ,また歩いて立ち止まるという動作はチドリ類の特徴であるが,大型種では動作がゆっくりで,小型種では早い。また湿地で餌をあさるときに,片脚を前に出して細かくふるわせて地表をたたき,その後で餌をついばむ動作が知られている。繁殖期以外には群れをつくることが多く,他の種またはシギ類との混群もつくる。とくに変わった形や習性をもつ種は少ないが,ニュージーランドのハシマガリチドリAnarhynchus frontalis(英名wry-bill)はくちばしの先がすべて右側へ曲がっている。

 日本には12種の記録があるが,繁殖するものはコチドリイカルチドリシロチドリケリタゲリの5種で,このうちイカルチドリ,シロチドリ,ケリは留鳥または漂鳥で一年中見られるが,コチドリは大部分夏鳥で,少数が九州や沖縄で越冬し,タゲリは繁殖数は少なく,大部分は冬鳥である。残りの7種はおもに旅鳥であるが,規則的に渡来するのはメダイチドリオオメダイチドリムナグロダイゼンで,ダイゼンは相当数越冬する。残りのハジロコチドリ,オオチドリ,コバシチドリはまれに渡来するにすぎない。

チドリ目Charadriiformesはチドリ亜目,カモメ亜目,ウミスズメ亜目に分けられる。外形的には著しく違っていて,生活様式にも違いがあるが,内部形態は類似点が多い。チドリ亜目はシギ,チドリ,ミヤコドリなどを含み約200種,カモメ亜目はカモメアジサシトウゾクカモメなどで94種,ウミスズメ亜目はウミスズメウミガラスなどで21種がある。チドリ亜目にはレンカク科,タマシギ科,ミヤコドリ科,チドリ科,シギ科,セイタカシギ科,ヒレアシシギ科,カニチドリ科,イシチドリ科,ツバメチドリ科,ヒバリチドリ科,サヤハシチドリ科の12科がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「チドリ」の意味・わかりやすい解説

チドリ
ちどり / 千鳥
plover

鳥綱チドリ目チドリ科に属する鳥の総称。この科Charadriidaeの仲間は世界中で約60種が知られ、南極大陸を除いて世界的に分布している。温帯、熱帯に留鳥として暮らしているものが多いが、北半球の極地で繁殖するものは長い渡りをする。体はスズメよりやや大きいぐらいのものから、ハト大のものまでいる。雌雄の羽色はほとんど同色、体つきはずんぐりしていて、頭と目が大きいのが一般的特徴である。嘴(くちばし)は短めで、先のほうに膨らみがある。足の指はかなり長めで、ダイゼンを除いて後趾(こうし)がなく、3本指である。大部分は海岸地域や平野にすんでいるが、山地にすむものもいる。採餌(さいじ)は草原や川原、河川、水辺、湖沼、海岸などで行い、ミミズ類、昆虫類などを主食とする。採餌の際、すこし歩いては地面をつついて餌(えさ)をとり、また数歩歩いてはつつく。頭を下げたまま採餌するのはシギ類で、チドリ類はそうした動作はしない。巣は荒れ地草地のへこみを使い、小石や枯れ草などを多少敷いて3、4卵を産む。雛(ひな)は孵化(ふか)後数時間で歩くことができる。卵の色は周囲の荒れ地に紛れるように模様がある。

 日本には、ダイゼン、ムナグロ、コバシチドリ、オオメダイチドリ、メダイチドリ、ハジロコチドリ、コチドリ、オオチドリ、イカルチドリ、シロチドリ、ケリ、タゲリの12種の記録がある。そのうち、繁殖しているのはイカルチドリ、シロチドリ、コチドリ、ケリ、タゲリの5種である。

 他の近似種として次のようなものがある。フタオビチドリCharadrius vociferusは全長25センチメートル。北アメリカの平原に広く分布している。胸に2本の黒帯をもち、英名となっているkilldeerと聞きなせる声でよく鳴く。ハシマガリチドリAnarhynchus frontalisは全長19.5センチメートル。上面は灰色で下面は白色。約25ミリメートルある嘴は右へ曲がっている。川原で繁殖し、2卵を産む。走るのは速い。

 なお、「千鳥」は俳句の季語としては冬に入れられているが、日本のチドリ類の生態をみると、かならずしもあたってはいないので注意を要する。また、海岸にたくさんの鳥が集まっているようすから「千鳥」とよぶこともありうるが、この場合はチドリ類のみでなく、同様の環境でみられるシギ類をもさしていると思われる。シギ・チドリ類の群れは冬にもみられるが、春と秋の渡りの時期に大きな群れがみられる。

[柳澤紀夫]

文学

『万葉集』から歌材として詠まれ、「近江(あふみ)の海(み)夕波千鳥汝(な)が鳴けば心もしのに古(いにしへ)思ほゆ」(巻3・柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ))などと詠まれている。「友呼ぶ千鳥」や「佐保(さほ)の川原で鳴く千鳥」など、類型としてよく詠まれた。また、「思ひかね妹(いも)がり行けば冬の夜の川風寒(さむ)み千鳥鳴くなり」(『拾遺集(しゅういしゅう)』冬・紀貫之(きのつらゆき))などと詠まれるように、冬の景物となった。「浜千鳥」という形でも多く詠まれ、筆跡・手紙・書物の意に用いられるようにもなった。『枕草子(まくらのそうし)』「鳥は」の段に「いとをかし」と記され、『源氏物語』には「須磨(すま)」「総角(あげまき)」に3例、冬の心象風景としてみえる。冬の季題。

[小町谷照彦]


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百科事典マイペディア 「チドリ」の意味・わかりやすい解説

チドリ(千鳥)【チドリ】

チドリ科の鳥の総称。翼長は普通10〜25cm。体色は腹面が白く,背面は褐色,頭部と胸に黒帯をもつものが多い。世界の温・熱帯部に広く分布し,日本には12種。海浜に多いシロチドリ,海浜や川原にすむコチドリ,前種よりさらに川の上流にすむイカルチドリ,ほかにケリタゲリの5種が繁殖し,他は冬鳥または旅鳥。秋〜冬には群生することが多い。川原等の地上に浅くくぼみを作り,小石,貝殻等を敷いて巣とする。卵は3〜4個。卵,ひなともに色彩・斑紋は小石に似る。繁殖期に親は害敵に対して両翼を広げ傷ついたように地上をひきずり歩くいわゆる擬傷を行う。また近縁の他の科にもイシチドリ,ツバメチドリ等チドリと呼ばれるものがある。
→関連項目荒尾干潟東よか干潟谷津干潟

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チドリ」の意味・わかりやすい解説

チドリ
plovers

チドリ目チドリ科のチドリ属 Charadrius やムナグロ属 Pluvialis などの鳥の総称。タゲリ属 Vanellus の鳥もチドリ科であり,チドリといえるが,普通は属名でケリかタゲリと呼ばれる。チドリは一般に小型ないし中型の鳥で,およそ 45種からなる。シギに比べて頭が比較的大きく,頸は短く,全体にずんぐりしており,は短くてじょうぶである。趾(あしゆび)はダイゼンを除くと後趾を欠き,3本である。繁殖期には草地,海岸,河原にすみ,地面のくぼみに産卵する。孵化したは綿羽に覆われ,孵化後数時間で巣を離れる(離巣性)。親鳥は,卵や雛に危険が迫ると,擬傷行動によって害敵の注意をそらす。全世界に広く分布し,日本では 13種が記録されている。そのうち留鳥 3種,繁殖するもの 3種で,ほかは旅鳥(→渡り鳥)である。タゲリ属のケリタゲリは繁殖記録がある。

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世界大百科事典(旧版)内のチドリの言及

【擬傷】より

…卵や雛をもつ親鳥が,近づいた外敵に対してけがをしているかのような動作をとり,注意を自分の方に向けつつ移動して,外敵を卵や雛から遠ざけてしまう行動で,一種の利他的行動といえる。シギ・チドリ類,カモ類,キジ類など,地上に巣をつくる鳥でよく見られる。チドリ類では,親鳥は外敵が近づくと,そのすぐ近くまで飛んでいき,背を向けると同時に翼を広げて地面をたたくような動作をする。…

※「チドリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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