日本大百科全書(ニッポニカ) 「オナガザメ」の意味・わかりやすい解説
オナガザメ
おながざめ / 尾長鮫
軟骨魚綱ネズミザメ目の科や属の総称。オナガザメ科Alopiidae(英名thresher sharks)はオナガザメ属Alopiasの1属からなる。同科のサメは、体の半分ほどもあるきわめて長い尾びれにより容易にほかのサメ類と区別できる。属名Alopiasは「キツネ」の意味で、尾が長いことに由来している。全世界に3種のオナガザメ類が知られ、日本近海にもこの3種が分布している。
ハチワレA. superciliosusは、太平洋、インド洋、大西洋の温熱帯海域に分布し、目が縦長で非常に大きく、頭の側面から背面にあること、後頭部から胸びれ上方にかけて溝があり、上から見るとその溝が「八」の字状に割れて見えること、尾びれが太いことなどにより特徴づけられる。全長5メートルほどになる。ニタリA. pelagicusとマオナガA. vulpinusは、目が丸く、体側に位置していること、尾びれが細長いことなどで似ているが、ニタリは尾びれの末端葉が小さく、臀(しり)びれとほぼ同大であること、体腹面の白色部分が胸びれの上まで広がらないことなどで区別できる(マオナガの尾びれ末端葉は臀びれよりかなり大きく、体腹面の白色は胸びれの上まで広がる)。
オナガザメ類は食卵型胎生で、胎仔(たいし)は子宮内である程度の大きさになるまでは自分のもつ卵黄で成長し、その後は卵巣から供給される小形の栄養卵を食べて成長する。全長1~1.5メートルの子を2~6尾産む。オナガザメ類にはたいへん興味ある習性があり、小魚やイカの群れに近づき、下側から獲物に向かって、その長い尾びれを振り上げ、獲物をたたいて弱らせてから食べる。3種とも延縄(はえなわ)などで漁獲されるが、獲物を尾びれでたたくという習性をうまく利用した漁業があり、多くが尾びれに針がかかった状態で釣りあげられる。肉はステーキや上等の練り製品の原料となる。国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、ニタリは絶滅危惧(きぐ)種中の「危機」(EN)に、ハチワレとマオナガは「危急」(VU)に指定されている(2021年9月時点)。
[仲谷一宏 2021年10月20日]