日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャコメッティ」の意味・わかりやすい解説
ジャコメッティ
じゃこめってぃ
Alberto Giacometti
(1901―1966)
スイスの彫刻家。スイスのシュタンパに生まれる。ジュネーブの美術工芸学校に学ぶ。イタリアに遊学後、1922年パリに住み、ブールデルの工房で学ぶ。25年ごろからキュビスム風の構成的な彫刻を発表。30年シュルレアリスムの運動に参加、『午前四時の宮殿』(1933・ニューヨーク近代美術館)を制作。しかしこれらの試みからふたたび自然に基づく探求、とくに人体表現へと帰り、35~45年の間、第二次世界大戦前から戦後にかけての苦悩と不安をまったく独自な人体表現に託した。凝縮されほとんど針金のようになった人体、荒々しくとげとげしい肌、ときには数センチメートルにまで小さくなった大きさ。それらはとくに戦後世界の状況のなかで、人間の実存の表現として高く評価された。やがて人体はしだいに高くなるが、いっそう細くなる。晩年は弟ディエゴと妻アネットの顔に、人類の苦悩、そしてまた表現の苦悩そのものを託した。62年ベネチア・ビエンナーレで大賞を受賞。65年ロンドンおよびニューヨークで大回顧展が開催された。スイスの故郷に近い町クールで没。
[中山公男]
『矢内原伊作著『ジャコメッティとともに』(1969・筑摩書房)』