日本大百科全書(ニッポニカ) 「モビール」の意味・わかりやすい解説
モビール
もびーる
mobile
現実の動きを伴う造形作品。従来までの彫刻は静止した像に運動感を暗示するが、実際に空間のなかで運動し、時間的持続において変化をみせる立体造形をいう。一般に動く美術作品を総称して「キネティック・アート」とよぶが、モビールは自然力、とくに風力や大気の微妙な振動に呼応して運動する作品をさす場合が多い。その原型はすでに1910年代のロシアのタトリンやロドチェンコの実験にさかのぼることができるが、モビールの名称はアメリカの彫刻家コルダーの動く造形作品をめぐって1923年に生まれた。「動く彫刻」の創造に専念して世間一般に広めたのはこの彫刻家であり、初期の一時期を除けば、作品の多くは一点で支えられた針金による抽象構成が空中で微妙なバランスを保ち、わずかな大気の流れにも敏感に反応して絶え間ない運動による変幻を繰り広げる。そのモビールには、天井から吊(つ)るされる「ハンギング・モビール」、大地や床に設置される「スタンディング・モビール」の二形態があり、三次元の立体に時間軸を加えた四次元の芸術として20世紀美術の重要な変革の一つである。モビールの創造は多くの追従者を生み、今日では現代芸術の一領域を形成しており、純粋美術ばかりではなく、室内装飾や工芸デザインにも広く応用されている。
[石崎浩一郎]