オーデン(読み)おーでん(英語表記)Wystan Hugh Auden

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オーデン」の意味・わかりやすい解説

オーデン
おーでん
Wystan Hugh Auden
(1907―1973)

イギリスに生まれ、のちアメリカに帰化した詩人ヨーク出身。オックスフォード大学卒業。1930年代に左翼的発言と実験的詩法の開拓で知られた、いわゆる「30年代詩人」の中心的人物として、イギリス詩壇で華々しい詩作活動を示した。とくにデー・ルイススペンダー、マクニースらは作品の内容も詩風もオーデンに影響されるところが大きく、個人的な親近関係もあって、一括して「オーデン・グループ」の名でよばれる。イギリス時代の代表作としては『詩集』(1930)、『演説者たち』(1932)、『見よ、旅人よ』(1935)、ほかにイシャウッドとの合作になる数編の詩劇、マクニースとの合作になるアイスランド紀行詩、スペイン戦争を主題にした有名な詩編などがあり、また日中戦争当時イシャウッドとともに中国に渡って中国側から戦線とその背後に取材したルポルタージュ『戦争への旅』(1939)がある。この時期の彼の作品の根底にあるのは、病める社会への対症療法として彼が処方したマルキシズムだったが、それは思想的というより倫理的、心理的なもので、中産階級出身者としての被圧迫階級に対する後ろめたさ、良心の疼(うず)きなどとない交ぜになっている。したがって一方では、病める個人の魂の救済法としてのフロイディズム(フロイト主義)への傾倒も顕著だった。この両者間の相克あるいは調整、そして「愛」による矛盾の解決が彼の詩の主題だったといえる。技法の面では、古代英詩風の単音節語を多用し、皮肉な軽みを加えた独特なスタイルをつくりだした。第二次世界大戦中の1939年アメリカに移住してからはイギリス聖公会に帰依(きえ)し、詩風は著しく宗教的色彩を深めた。アメリカ詩壇においても大御所として君臨、とくに技法の面で若い詩人に与えた影響は大きい。その間1956年から1961年まではオックスフォード大学の詩学教授を務めた。後期のおもな作品は『新年の手紙』(1941)、『しばらくの間』(1944)、『不安の時代』(1947)、『アキレスの盾』(1955)、『クリオ賛歌』(1960)、『名づけ子への手紙』(1972)などがある。

[沢崎順之助]

『深瀬基寛訳『オーデン詩集』(1955・筑摩書房/1968・せりか書房)』『加納秀夫訳『世界名詩集大成10 見よ、旅人よ他』(1959・平凡社)』『風呂本武敏訳『演説者たち』(1977・国文社)』『風呂本武敏訳『新年の手紙』(1981・国文社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オーデン」の意味・わかりやすい解説

オーデン
Auden, Wystan Hugh

[生]1907.2.21. ヨーク
[没]1973.9.28. ウィーン
イギリスの詩人。 1946年アメリカに帰化。オックスフォード大学詩学教授 (1956~61) 。『詩集』 Poems (30) 発表以来,散文詩集『演説家たち』 The Orators (32) ,『死の舞踏』 The Dance of Death (33) ,また『F6登攀』 The Ascent of F 6 (36) など数編の詩劇において,マルクスの社会意識とフロイトの精神分析をもって病めるイギリスを「診断」,人間の真の接触を可能にする社会の創造を主張し「30年代」の先導者となったが,『スペイン』 Spain (37) を最後に政治的主題を離れ,『新年の手紙』 New Year Letter (41) ,『不安の時代』 The Age of Anxiety (47) ,『第五時祷』 Nones (51) ,『クリオ賛歌』 Homage to Clio (60) などにおいて次第に宗教的となり,信仰と知性の葛藤が愛に包摂されるという信念を神秘的象徴的な言葉に託して歌うようになった。

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