日本大百科全書(ニッポニカ) 「かけおち」の意味・わかりやすい解説
かけおち
欠落
江戸時代に、貧困、借財その他の原因で失踪(しっそう)することを欠落(かけおち)といった。一般に出奔、逐電、立退(たちのき)などの語も用いられたが、法律上は欠落が多用された。
欠落する者があると、その者の属する町村の役人は、奉行所(ぶぎょうしょ)、代官所に届け出る。奉行所では、親類や町村役人に一定の期限を定めてその捜索を命じ、初め30日を限りとして、30日以内に捜し出さないときは、さらに30日を限って捜索を命じ、このようにして30日ずつ六度まで延長された。のちに幕府御料の村では初めから180日限りの尋ねが命じられた。180日限りを経過しても欠落人が捜し出せないと、尋ね人は処罰され、改めて永尋(ながたずね)が命ぜられた。欠落人は急度叱(きっとしか)りの刑に処せられた。欠落人の財産は親類、五人組、村役人らに管理させ、田畑は村惣作(そうさく)(村に管理させ、田畑の耕作や年貢弁納の義務を負わせること)とした。永尋が命ぜられ、または欠落人が帳外(ちょうがい)(人別帳から削除される)となるときは、欠落人の跡株(相続田畑)は相続人の願い出により、相続が許される。欠落人は罪科など不当な点がなければ帰住が許された。
[石井良助]
駆落
失跡を意味する欠落のうち、恋愛関係の男女が家出する事例を、やや特別視していうことば。法律上は失踪に違いはないが、江戸時代の男女間には姦通(かんつう)や身分制度などの刑事的・社会的規制が強く、女が遊女なら前借金も絡むなどの特殊な事情による。駆落は情死(心中)に陥りやすく、この逃避行を浄瑠璃(じょうるり)では道行(みちゆき)に潤色したので、駆落を道行ということもある。欠落の用語が廃れた明治以後も、男女の駆落は俗語として通用した。
[原島陽一]