日本大百科全書(ニッポニカ) 「逃亡婚」の意味・わかりやすい解説
逃亡婚
とうぼうこん
婚姻の一形態であり、男女がともにその居住地から逃げて達成する婚姻。いわゆる「駆落(かけおち)」はこれに含まれる。原因はいくつか考えられる。まずその婚姻がなんらかの規制により禁止されている場合で、各社会で定められている婚姻規制や、その社会の規範に反する場合がこれにあたる。次に両親など親族の同意を得られない場合で、婚姻に際して親族の決定権が大きい社会では頻繁におこる。あるいは、婚姻に際して相手側(しばしば妻となる女性側)に高額の婚資を支払うことが義務づけられており、これを支払うことができない場合、一つの方法として逃亡婚が行われる。逃亡婚を行った夫婦は社会的制裁が加えられることが多いが、そのあとで、黙認などなんらかの妥協がなされる場合があり、あらかじめそれを見込んでする逃亡婚もある。さらにはそれが発展して慣習化している例もある。ネパールの一地域では婚姻の際、妻側に多額の金を支払うことになっているが、他人の妻と逃亡するのがもっとも支払いが少なくてすむので、これが頻繁におこる。また、日本の一部の地域で伝統的に行われてきた「嫁盗み」とよばれるような習慣は、承認されにくい結婚を周囲に認めさせるという意味では、逃亡婚に近い側面がある。
[豊田由貴夫]