改訂新版 世界大百科事典 「カスミサンショウウオ」の意味・わかりやすい解説
カスミサンショウウオ
Hynobius nebulosus
サンショウウオ科の1種。鈴鹿山脈以西の本州から四国の瀬戸内沿岸地方,九州北西部,壱岐(いき)の低山地に分布し,全長7~11cm,最大は15cmほど。頭部はやや扁平で眼は小さいが突出している。四肢が短く,指は前肢に4本,後肢に5本。皮膚は滑らかで,尾部の上下縁には原則として黄色のすじ模様がある。繁殖期以外は,丘陵地の竹やぶや雑木林付近の落葉や倒木の下など,湿った場所に潜み,主として夜間に行動する。性質はまったくおとなしく動作も緩慢で,昆虫,ミミズ,甲殻類などを餌としている。繁殖期は暖地では12月から,一般では3月ころで,丘陵地の湿地,水田,用水池,溝などの静水中に,1対の卵囊を産む。卵囊は紡錘形またはひも状で,水中の枯枝や石に産みつけられ,1卵囊中に約30~60個の卵が含まれる。孵化(ふか)した幼生には3対の外鰓(がいさい)とひげ状のバランサー(平衡桿(へいこうかん))があり,やがて糸のように細い前肢が先に出てくる。成長した幼生は,止水性サンショウウオの特徴として尾が側扁し幅広い。日本にはそのほか13種の同属のサンショウウオが分布し,いずれも形態,生態ともに類似する。そのうちクロサンショウウオH.nigrescens(全長約15cm),ヒダサンショウウオH.kimurae(約15cm),トウホクサンショウウオH.lichenatus(約12cm)は山地性で,高地の池沼に産卵する。北海道にはエゾサンショウウオH.retardatusが分布し,全長14~19cmでやや大きい。ブチサンショウウオH.naevius(約13cm)は分布域がカスミサンショウウオと重なるが,山地に多く産卵も渓流で行う。幼生は緩やかな流水で育つ。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報