改訂新版 世界大百科事典 「サンショウウオ」の意味・わかりやすい解説
サンショウウオ (山椒魚)
salamander
サンショウウオ目(有尾目)のうちサンショウウオ科Hynobiidae,アンビストマ科Ambystomidae,プレソドン科Plethodontidaeなど5科に含まれる両生類の総称。自衛のために皮膚腺から分泌される液がサンショウのにおいがすることからこの名がある。英名が〈トカゲのような生物〉を意味するように,形態はトカゲ型で,原則として四肢が発達する。前・後肢はほぼ同大で,原則として前肢の指が4本,後肢の指は5本。カエルが変態後は尾を消失するが,サンショウウオは変態後も発達した尾を有する。ほとんどが全長10cm前後の小型で,大きな種でも20cmほど。体は細長く頭部はやや扁平で眼がとび出し,胴側部には十数条の溝状のしわ(肋条)がある。尾は発達するが全長の1/2以下のものが多く,池沼などの止水で繁殖する種類では,側扁して上下に膜びれが発達する。皮膚はすべて滑らかで耳腺などは発達しない。
日本産サンショウウオ18種のうち15種はカスミサンショウウオ属Hynobiusに属するが,ほとんど形態的に類似し,わずかに種によって肋条の数,尾の形状あるいは体色,斑紋などが異なる。頭骨の構造の違いで別属に分けられるオオダイガハラサンショウウオPachypalaminus(=Hynobius) boulengeriは,紀伊半島・四国・大分県の山地に分布し,全長16~20cmに達する日本産サンショウウオの最大種であるが,形態的には他種と大差がない。本州・四国の山地に分布するハコネサンショウウオOnychodactylus japonicusも全長15~19cmと大きく,円筒状の尾が全長の1/2よりも長い渓流産卵型で,肺を欠く。北海道東部の湿原に生息するキタサンショウウオSalamandrella keyserlingiは,サハリンからシベリア,中国東北に広く分布する種で,後肢の指が4本。アメリカ大陸に分布するアンビストマ科は形態的にサンショウウオ科と大差ないが,プレソドン科には,外鰓(がいさい)をもち洞窟の地下水中にすむテキサスメクラサンショウウオTyphlomolge rathbuniや,四肢が退化した細長い体をコイル状に巻いて隠れるホソサンショウウオ属Batrachosepsなど,形態,生態ともに変異に富んだものが含まれる。
サンショウウオは一般に行動がにぶく,環境への適応放散の広がりはあまり見られない。ほとんどの種は平地から山地の,森林の湿った場所や池沼の水辺にすみ,繁殖期以外は陸で過ごす。夜行性で,昼間は倒木や石の下などに潜み,夜間や雨天に行動して昆虫,ミミズ,ナメクジなどの小動物を捕食する。プレソドン類の生息域は変化に富み,高い樹木の鳥の巣,洞窟,井戸の地下水中にも見られ,またアンビストマ科のアホロートルのように,幼形成熟するものも知られている。そして性質のおくびょうなサンショウウオの中にあって,積極的な自衛手段を行使するものも少なくない。例えば北アメリカにすむウスグロサンショウウオDesmognathus fuscusはおどし行動として,急に10cm余りも跳ね上がる。ほかに尾を巻き上げ体を揺すったり,かみついたり,皮膚からねばねばした粘液を出したり,のどを収縮させ空気を押し出して音を立てるものもある。
ほとんどが早春に産卵を行うが,早いものは初冬,高地や寒冷地では初夏に行われ,すべて体外受精。卵囊は寒天質からなり,1対のバナナ形かアケビ形で一端が水中の枯枝や岩に付着するが,形や寒天質のようすは種によって異なる。1卵囊中には10~20個,多いものは40~80個の卵が含まれ,孵化(ふか)した幼生は1対の突起(バランサー)をもつものと,これを欠くものとがある。幼生は成体と同じ形態で四肢が発達し,変態するまで外鰓をもち,水中生活を送る。変態後は肺を生じて陸に移るが,プレソドン科などでは肺を欠く。
サンショウウオ科は原始的な形質を備え,約36種がアジアの温帯から亜寒帯地方に分布し,中国西部からアフガニスタンに分布するタカネサンショウウオ属Batrachuperusのように,高地にすむものもある。トラフサンショウウオAmbystoma tigrinumに代表されるアンビストマ科は約32種が北アメリカに分布し,246種を含む大きなグループであるプレソドン科は北アメリカ,南アメリカおよびヨーロッパ南部に分布する。なお広義にはサンショウウオ目Urodelaに属する両生類を指し,上記以外にオオサンショウウオ科,イモリ科および成体でも外鰓や鰓孔(えらあな)が残るホライモリ科とアンヒューマ科とが含まれる。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報