日本大百科全書(ニッポニカ) 「カットグラス」の意味・わかりやすい解説
カットグラス
かっとぐらす
cut-glass
ガラス工芸の技法の一つ、およびその製品。わが国では切子(きりこ)ともいう。ガラスの器物の表面に、回転砥石(といし)などで溝を彫り込んで装飾とする方法で、透明で屈折率の高いガラスを用いた場合に、とくに効果がある。砥石の断面の形状と大きさによって溝の断面も変わるが、一般にはV字形の溝によって表面に幾何学的な模様を表すことが多い。色の異なるガラスをかぶせて、表層からカットすることも行われる。透明ガラスの地に赤あるいは青のガラス層をかぶせてカットした薩摩(さつま)切子はその好例である。
カットグラスの起源は明らかでないが、貴石の加工技術がガラス塊に応用されたことに始まると推測される。アッシリア帝国のガラス器に一種のカット技法が認められるが、ヘレニズム、ローマ時代にはとくに発達したと考えられ、それがパルティアやササン朝ペルシアに伝播(でんぱ)し、ガラスの主要な装飾技法となった。正倉院蔵の円形切子白瑠璃碗(るりわん)は、その典形的な例である。また、イスラム・ガラスでも盛んに用いられた。17世紀以降、良質の透明ガラスが開発され、とくにイギリスで華麗な酒杯や鉢などがつくられ、近代のカットグラスの基礎が確立された。わが国では江戸時代にこの技法が導入され、江戸切子、薩摩切子などが製作された。
[友部 直]