日本大百科全書(ニッポニカ) 「かに星雲」の意味・わかりやすい解説
かに星雲
かにせいうん
Crab Nebula
おうし座にある明るい超新星残骸(M1、NGC1952)。超新星爆発によって吹き飛ばされたガスと星間物質の相互作用に起因する多数のフィラメント状の構造が見られ、それが「かに」の姿に似ていることからこの名前がついた。見かけの大きさは約5分角で、明るさは約8等である。地球からの距離は約7200光年で、実際の大きさは約10光年である。メシエ天体の中では唯一の超新星残骸で、メシエ・カタログの1番目に記載されている。かに星雲を生んだ超新星爆発は1054年に起きた。この超新星SN1054は、昼間でも肉眼で見えたことが中国の記録などに残されている。日本では、藤原定家(ていか)の『明月記』に、「客星(かくせい)(常には見えず、突然一時的に見える星)」の発見記録として引用されている。超新星爆発で噴き出したガスは現在でも秒速1000キロメートル程度の速度で膨張している。1969年に、かに星雲の中心にある暗い星が、33ミリ秒の周期で強力な電波をパルス状に発するパルサーであることがわかった。パルサーは、強い磁場をもって高速で回転する中性子星である。かに星雲中のパルサーの発見によって、超新星爆発の際に中性子星ができることが示された。チャンドラX線衛星により、「かにパルサー」のまわりの降着円盤(周囲から落ち込んでくるガスが作る高温の円盤)とそこから噴き出すジェットのようすが克明にとらえられている。
[岡村定矩]