カワニナ(その他表記)Semisulcospira libertina

改訂新版 世界大百科事典 「カワニナ」の意味・わかりやすい解説

カワニナ (川蜷)
Semisulcospira libertina

カワニナ科の巻貝。北海道南部から台湾まで,また朝鮮半島南部に分布し,河川湖沼などにすむが,地方的に変異も著しい。殻は細長くて,高さ3cm,太さ1.2cmくらいであるが,福井県に分布する地方型オオカワニナは高さ5cm,太さ2cmに達する。殻の頂部はおかされて失われ,通常最後の3~5層くらいになっていることが多い。これは淡水に石灰分が少ないことによる。表面は黄緑色の皮をかむり,ときにはこの上に1~3の黒褐色の色帯を巡らすことがある。しかし,通常は汚れて全体が黒色になっていることが多いので,英名ではmelanian snail(黒い巻貝)という。雌雄異体であるが,雄に陰茎はないので外観では区別できない。卵胎生で,母体内に多いときは1000以上の子をもっている。その殻は1mmほどで,褐色で表面は滑らかである。流水中にすみ,雑食で洗場などに群生する。夜行性で日没後に盛んに活動する。ゆでた後,殻頂を欠き,殻口から吸って食用にしたが,現在は食用にされない。ホタル幼虫が好んで食べ,カワニナのいるところにホタルが多いので,長野県にはホタルガイの名がある。また肺吸虫の第1中間宿主として知られる。チリメンカワニナS.reiniaはこの種に似るが,殻の上に縦に肋が著しい。クロダカワニナS.kurodaiは殻が細くて,子貝の殻は白色である。
ハイキュウチュウ
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワニナ」の意味・わかりやすい解説

カワニナ
かわにな / 川蜷
melanian snail
[学] Semisulcospira libertina

軟体動物門腹足綱カワニナ科の巻き貝。淡水性の種で、北海道南部から日本全国を経て、台湾まで分布し、殻高60ミリメートルに及ぶ個体もあるが、通常は殻高30ミリメートル、殻径12ミリメートルぐらい。螺塔(らとう)は完全であれば10階を超えるが、殻頂部は侵されて欠けているのが普通で、最後の3層が残る程度のものが多い。これは日本の淡水にはカルシウムが少ないためで、カワニナに限らず淡水性貝類では殻頂部が侵食されている場合が多い。殻表は黄緑色で、黒褐色の螺状帯もあるが、老成すると汚れて真っ黒になる。流れの比較的弱い川や池沼の泥の多い水底をはう。卵は雌貝の体内でかえるので、母体内に数百にのぼる胎児貝をもつ。肺吸虫の第一中間宿主(第二中間宿主はサワガニザリガニ)や横川吸虫の第一中間宿主(第二中間宿主は淡水魚)となる。近似種は多く、チリメンカワニナS. reinianaやヒタチチリメンカワニナS. tracheaなど、日本には同属が9種あり、とくに琵琶湖(びわこ)水系には特産種が5種もいる。以前は地方によって食用とされたが、現在はほとんど利用されていない。

[奥谷喬司]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カワニナ」の意味・わかりやすい解説

カワニナ
Semisulcospira libertina; melanian snail

軟体動物門腹足綱カワニナ科の巻貝。殻高 3cm,殻径 1.2cmであるが,殻高 6cmに達する個体もある。日本の河川では石灰質分が少いため,螺層の殻頂部がむしばまれて脱落し,3~4層のことが多い。殻表は黄緑色地に黒褐色の色帯があるが,普通は藻類が付着して黒色になっている。殻口は卵形,ふたは革質で褐色。卵胎生で,母体内に数百の褐色の胎貝をもっている。北海道南部から台湾まで分布し,河川の流れのある砂礫底にすむ。横川吸虫の第1中間宿主となる。ホタルの餌となるためホタルの多いところにすんでいるということから,ホタルガイという地方もある。近縁のチリメンカワニナ S.reinianaはやや流れのゆるやかな河川を好み,染色体数も異なるとされるが,カワニナの種内変異とする考えもある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「カワニナ」の意味・わかりやすい解説

カワニナ

カワニナ科の巻貝。高さ3cm,幅1.2cmくらい。殻は黄緑色または黄褐色だが,多くはよごれて黒色。成貝は殻頂部がとれてなくなっているものが多い。北海道南部〜台湾,朝鮮半島の河川湖沼などにすむ。卵胎生。ホタルの幼虫の餌になる。また,ハイキュウチュウの第1中間宿主として知られる。近似種にチリメンカワニナ(関西),ヒタチチリメンカワニナ(関東)など。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のカワニナの言及

【貝】より

… 高僧の回国譚には貝にまつわる種々の物語が残っている。カワニナは成貝になると殻頂部が失われていることが多い。これについては,弘法大師が伊豆修善寺へいった際,川を渡るときに川の中にカワニナがたくさんいて足にささったので,今後ここを通る人がけがをしないようにとがった先を封じた。…

※「カワニナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android