改訂新版 世界大百科事典 「キヌバネドリ」の意味・わかりやすい解説
キヌバネドリ (絹羽鳥)
trogon
キヌバネドリ目キヌバネドリ科Trogonidaeに属する鳥の総称。この科は約8属34種の非常に美麗な鳥を含み,アフリカ(3種),熱帯アジア(11種),中央・南アメリカおよび西インド諸島(20種)に分布する。全長23~37cm。ただし,ケツァールの雄は飾羽も含めると全長1mを超えるものがある。大部分の種は背面が金属緑色や金属青色で,胸以下の下面は赤やピンクや黄などである。このはでな羽色は,実際にはすぐれた隠ぺい色の効果をもっていて,この科の鳥はきわめて見つけにくい。雌雄は同色ないし異色で,雌は一般に雄ほど美しくない。くちばしは短く,幅が広い。尾は長い。足は短く弱く,あしゆびは第3と第4指が前を向き,第1と第2指が後ろを向く変対趾足(へんたいしそく)で,これはキヌバネドリ科だけに見られる(通常の対趾足では第1と第4指が後ろを向く)。また皮膚がきわめてうすいのもこの科の特徴である。多くの種は熱帯の低地の密林に単独かつがいですみ,留鳥。しかし,標高4000mの山地の森林に生息する種もある。主食は昆虫とクモ類だが,漿果(しようか)や小さい果実,カエル,小型のトカゲ,カタツムリなどもかなり食べる。餌のとり方はふつう枝にじっととまっていて,獲物を見つけると舞い立ってとらえる。地上に降りることはめったにない。鳴声は単純で,もの悲しい感じの笛声である。キヌバネドリ類はすべて穴に営巣する。くちばしが小さいので,巣は樹洞やキツツキの古巣を利用することが多いが,朽木や樹上のハチやシロアリの巣に自分で穴をうがってつくることもある。中央・南アメリカに分布するハチクイキヌバネドリTrogon violaceusがハチの巣に営巣する場合は,早朝ハチの活動がにぶいときに巣をおそってハチを全部とって食べてしまう。それからくちばしで穴を掘り始めるが,巣をつくりながら内部の幼虫やさなぎも餌とする。この鳥はハチの毒には免疫であるらしい。キヌバネドリ類は産室に何も敷かず,1腹2~4個の卵を産む。抱卵,育雛(いくすう)は雌雄で行う。
キヌバネドリ科の中でいちばん有名なのは,マヤの神話に登場したりグアテマラの国鳥としてよく知られているケツァールである。ケツァールはまた世界でいちばん華麗な鳥という評判をとっている。その他の種は,色は美しいが飼育がケツァール同様比較的困難で,熱帯の密林中にすんでいるため観察も容易でなく,習性なども十分わかっていない。進化のうえではキヌバネドリは比較的古い時代に分化したもので,現在類縁の近いものがいない。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報