キモシン(読み)きもしん(英語表記)chymosin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キモシン」の意味・わかりやすい解説

キモシン
きもしん
chymosin

アスパラギン酸プロテアーゼ(タンパク分解酵素)の一つ。以前はレンニンrenninとよばれていたが、腎臓(じんぞう)のプロテアーゼであるレニンreninと紛らわしいので、国際酵素委員会の勧告によりキモシンとよばれるようになった。若い反芻(はんすう)動物、ウシヤギなどの胃液に含まれる。

 分子量4万0777で365残基のプロキモシンとして分泌され、ペプシンに似て酸性条件下で自己触媒的にアミノ酸42残基のプロペプチドをアミノ末端側から切り離し、アミノ酸323残基、分子量3万5652のキモシンとなる。この活性化は水素イオン濃度指数(pH)に依存しており、pH2では室温で5~10分であるが、pH5では2~3日かかる。牛乳を凝固させる凝乳作用があるため、古くからチーズやヨーグルトレンネット製造に利用されてきた。キモシンは乳タンパク質カゼインの一成分であるκ(カッパ)-カゼイン中のフェニルアラニンメチオニンPhe105-Met106の間のペプチド結合を切断し、この疎水性の部分が分子の表面に露出するようになる。このため、ミセル(微小球)をつくっていたカルシウムカゼインがますます大きく凝集することによりヨーグルトとなる。プロキモシンのアミノ酸配列は1975年に明らかになった。ペプシノゲン(ペプシンの前駆体)によく似ており、365残基のうち204残基が一致している。

 ウシ‐キモシンの結晶構造は、アメリカ・メリーランド大学のギリランドGary L. Gilliland(1948― )らが、1990年2.3オングストローム(Å)解像度で決定し、翌1991年、イギリス・ロンドン大学のニューマンM. Newmanらが2.2Å解像度で決定した。活性中心のくぼみcleftには基質であるタンパク質やペプチドの配列中四つのアミノ酸がくわえ込まれるサブサイトS4-S1(個々のアミノ酸が対応して結合する仮想的な部位。多くは5~6残基分)が想定されている。ここでタンパク質やペプチドが加水分解(切断)される。酵素の大きさは40×50×65Å。特異性はペプシンAに似て広いが、とくにチロシンのCO側を切断しやすい。さらに同年、人為的にバリンVal111からフェニルアラニンPheの変異をさせた酵素もつくられ、2.0Å解像度で三次元構造も明らかにされた。2003年にはバッファローのキモシンが報告された。分子量約3万5600で、少なくともN末端配列の8残基はウシのものと一致している。なお、現在はヨーグルトの製造には微生物の強力な酵素が使われている。

[野村晃司]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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