分子内に親水性部分と親油性(疎水性)部分とをあわせもつ物質を両親媒性物質と呼び,界面活性剤はその典型的なものである。このような物質を水に溶かすと,ある濃度以上で,親水基を外に親油基を内に向けて,数十から百数十分子が集まって,図に示すような会合体をつくる。このような会合体をミセルと呼ぶ。数十nmの直径をもち,会合コロイドの一種である。ミセルの存在は,1913年マクベーンJames William McBain(1882-1953)により提唱された。濃度が十分低いとき,界面活性剤は分子状に溶解するが,ある濃度(臨界ミセル濃度critical micelle concentration,CMCと略記)になるとミセルを形成し,水溶液の性質はこの濃度を境にして顕著に変化する。ミセルの内部は親油性で,油類を溶かしこむことができる。この現象を可溶化solubilizationといい,界面活性剤水溶液が示す洗浄作用の原因の一つとなる。界面活性剤濃度が高くなると,初め球状ミセルの大きさはそのままで数が多くなっていくが,さらに濃度が高くなると,球状ミセルがさらに会合し,層状ミセルなど種々の会合状態をとるようになる。界面活性剤をベンゼンなどの非水溶媒に溶かすと,親油基を外に親水基を内に向けて会合する。これを逆ミセルといい,逆ミセルはその内部に水を可溶化することができる。ミセルという言葉は,1858年ネーゲリKarl Wilhelm von Nägeli(1817-91)が,デンプンやセルロースのゲルが光学的異方性を示すのは,分子が配向した微結晶構造をもつためと考え,この構造をミセルと呼んだのが始まりである。その後,セルロースなどは小分子の会合体ではなく,巨大分子であることが明らかになり,セルロースの高分子鎖が部分的に会合して束をつくり微結晶になるという,ふさ状ミセル説が広く行われるようになった。
→界面活性剤 →コロイド
執筆者:妹尾 学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
二通りの意味に用いられるので、以下それぞれについて記す。(1)多数の分子が分子間力で会合して生成した親液コロイド粒子のこと。1912年にアメリカのマックベインJames William McBain(1882―1953)が提唱した用語である。せっけんやアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS)などの長鎖の電解質の溶液では、ある一定の濃度(臨界ミセル濃度、CMC)以上になるとミセルの形成がおこる。このようなミセルの生じているせっけん水溶液などには、水に溶けにくいはずの有機溶媒を加えても溶解してしまう。これを可溶化という。これは、加えた溶媒がミセルの構成分子の末端(親油基)の間にとらえられるためで、このために当然ながらミセルのサイズは変化する。しかし有極性の液体の添加では、親油基は影響を受けないのでミセルサイズの変化はおこらない。(2)高分子物質を構成する微結晶をミセルとよぶ。ときには混用を避けるためにクリスタライトcrystalliteとよぶこともある。セルロースや絹、羊毛などの繊維組織の基本単位であり、このミセルの集合配列したものをミクロフィブリル、さらに高次に集まったものが繊維(ファイバー)となる。ミセルの大きさは、X線小角散乱法や広角X線法によるか、あるいは電子顕微鏡により直接ミセルを観察すれば求められる。絹などの繊維では溶解法がとられることもある。
もともとミセルということばは、1858年にスイスの植物学者ネーゲリが、デンプンやセルロースのゲルが光学的に異方性を示すことから、ゲル中に微細な結晶質粒子の存在を予想し、これに対して与えたものである。今日でのミセルのモデルは、総状ミセルといわれているものが一般的に認められているものである。鎖状高分子が平行に集まって束をつくり、これがミセル(クリスタライト)をなす。分子の末端部は総状となって他のミセルの端と結合し、無定形部分を形成しているというモデルである。
[山崎 昶]
【Ⅰ】ある濃度以上で界面活性剤分子が集まってつくる親液コロイド(セッケン溶液など)集合体をミセルという.ミセルの形や性質にはいろいろあるが,界面活性剤水溶液中にはある濃度以上では分子またはイオンの集合体としてのミセルが存在し,この濃度を臨界ミセル濃度という.ミセルを形成しているセッケン水溶液に無極性有機液体を加えると,ミセルの大きさは変わるが,有極性有機液体では変化はない.無極性液体はミセルの末端基間に入り,有極性液体は分子間に入ると考えられるためである.乳化重合においては,乳化剤がミセルを形成し,そのなかで単量体(モノマー)が可溶化されて重合する.ミセルの効果をうまく利用した例といえる.【Ⅱ】高分子物質を構成する微結晶粒子をいい,クリスタラリットともいう.ミセルはセルロースや絹,羊毛などの繊維組織の結晶の基本単位で,これが集合,配列してミクロフィブリル,さらには繊維を形成する.セルロースにおいて,ミセルが相互にファンデルワールス力により結合して構造をつくる房状ミセルモデル([別用語参照]房状ミセル構造)も生まれてきた.ほかの多くの結晶性高分子に対してもこのモデルが適用されたが,現在はほとんどの高分子が折りたたみ結晶を形成することが明らかになっている([別用語参照]折りたたみ構造).ミセルの大きさは,結晶干渉点の広がりの解析による広角X線法や,一次X線入射点付近の散乱X線強度から求める小角散乱法,あるいは電子顕微鏡による方法などで決定される.セルロース,絹では加水分解法なども用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…脂肪の吸収は,糖,タンパク質加水分解産物の場合とはちがった機序で行われる。脂肪の消化の結果生じたモノグリセリド,脂肪酸は,胆汁酸とともにミセルとよばれる微細粒子を形成する。ミセルは,疎水性の部分を内包し親水性の極性部分を外側にした構造をしており,水溶液中で安定である。…
…粒子コロイドが安定に存在する要因は粒子表面の電荷である。 セッケンの溶液がコロイドの一種であることはかなり以前から知られていたが,アメリカのマクベインJ.W.McBain(1913)はこれがセッケン分子の会合によると考え,その会合体をミセルと呼んだ。界面活性剤分子が水溶液中でコロイド次元の会合体を形成することは,その後多くの研究により明らかにされ,これらは会合コロイドと呼ばれる。…
…水を少量含んだ有機溶媒にはよく溶け,細胞や組織からはよくクロロホルム‐メチルアルコール混合液を用いて抽出される。水に溶かすと大半はミセルを形成する。 グリセロール誘導体ではないもう一つのリン脂質はスフィンゴミエリンsphingomyelinである。…
※「ミセル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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