ミセル(読み)みせる(英語表記)micelle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミセル」の意味・わかりやすい解説

ミセル
みせる
micelle

二通りの意味に用いられるので、以下それぞれについて記す。(1)多数の分子が分子間力で会合して生成した親液コロイド粒子のこと。1912年にアメリカのマックベインJames William McBain(1882―1953)が提唱した用語である。せっけんやアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS)などの長鎖の電解質の溶液では、ある一定の濃度臨界ミセル濃度CMC)以上になるとミセルの形成がおこる。このようなミセルの生じているせっけん水溶液などには、水に溶けにくいはずの有機溶媒を加えても溶解してしまう。これを可溶化という。これは、加えた溶媒がミセルの構成分子の末端(親油基)の間にとらえられるためで、このために当然ながらミセルのサイズは変化する。しかし有極性の液体の添加では、親油基は影響を受けないのでミセルサイズの変化はおこらない。(2)高分子物質を構成する微結晶をミセルとよぶ。ときには混用を避けるためにクリスタライトcrystalliteとよぶこともある。セルロースや絹、羊毛などの繊維組織の基本単位であり、このミセルの集合配列したものをミクロフィブリル、さらに高次に集まったものが繊維ファイバー)となる。ミセルの大きさは、X線小角散乱法や広角X線法によるか、あるいは電子顕微鏡により直接ミセルを観察すれば求められる。絹などの繊維では溶解法がとられることもある。

 もともとミセルということばは、1858年にスイスの植物学者ネーゲリが、デンプンやセルロースのゲルが光学的に異方性を示すことから、ゲル中に微細な結晶質粒子の存在を予想し、これに対して与えたものである。今日でのミセルのモデルは、総状ミセルといわれているものが一般的に認められているものである。鎖状高分子が平行に集まって束をつくり、これがミセル(クリスタライト)をなす。分子の末端部は総状となって他のミセルの端と結合し、無定形部分を形成しているというモデルである。

山崎 昶]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミセル」の意味・わかりやすい解説

ミセル
micelle

分子間力による多数の分子の集合体を一般にミセルと呼んでいる。 (1) 界面活性剤溶液がある濃度以上になったときにできる界面活性剤の分子またはイオンの集合体。ミセルができはじめる限界の濃度を臨界ミセル濃度 (cmc) という。界面活性剤の水溶液では,活性剤 (分子またはイオン) が集ってミセルをつくり,この大きさがコロイド粒子の大きさに相当する。このようなコロイドをミセルコロイドという。 (2) クリスタリットのこと。高分子物質を構成する微結晶,または繊維組織の基本構成単位。ミセルが集ってミセルストランド,ミクロフィブリル,フィブリルと進み,ついに1本の繊維を構成する。セルロースのミセルは 500× 50Å程度の大きさであるとされている。ミセルは高分子物質の特性を説明するのに利用される。

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