改訂新版 世界大百科事典 「クイーンアン様式」の意味・わかりやすい解説
クイーン・アン様式 (クイーンアンようしき)
イギリスのアン女王の治世(1702-14)にみられる美術・工芸様式。その特徴は前代のウィリアム・アンド・メアリー時代のオランダ・バロックの特質や,漆塗家具といった東洋趣味を引き継いではいるが,装飾は控え目で,シンプルな使い良い形態を目ざしている。家具においては,豪華さよりも,古典主義的な軽快で優雅な形を重視し,明るい色のウォルナット材が好まれた。またカブリオール脚と呼ばれる,動物の脚をかたどった脚がテーブルや椅子の脚に用いられた。アン女王の東洋趣味は前代からあった飲茶の習慣を,上流階級の家庭に定着・普及させた。そのため小ぶりで丸いティー・テーブルが創り出された。同時に中国製磁器収集の流行に従い,専用の飾り戸棚ドレッサーが創られた。建築においては,ウィリアム・アンド・メアリー時代のバロック様式が継承され,C.レンの様式が続いた。クイーン・アン様式の特徴を端的に表すものに銀器がある。表面に浮彫やエングレビングを施さず,単純な形態や黒檀の把手との対比などによって,素材そのものがもつ美しさを引き立てている。これらの銀器は,おもにフランスから移住してきたユグノーの工人たちを中心として作られた。
クイーン・アン様式は19世紀に再び取り上げられた。1870年ころR.N.ショーは,実際は17世紀後期の様式である赤煉瓦,寄棟式屋根,広い窓をもつカントリー・ハウスをクイーン・アン様式の建築としてリバイバルさせた。また銀器やカブリオール脚をつけた家具もつくられた。
執筆者:友部 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報