クラミジア・トラコマティス感染症

内科学 第10版 の解説

クラミジア・トラコマティス感染症(クラミジア感染症)

概念・病因
 C. trachomatisによって起こる感染症である.ヒト-ヒト感染で粘膜上皮細胞に感染し,慢性化しやすい.疾患も,血清型D~Kによって起こる性器クラミジア感染症,新生児クラミジア肺炎,封入体結膜炎,クラミジア性喉頭炎のほか,トラコーマ,性病性リンパ肉芽腫症,Reiter症候群など多岐にわたる.性感染症(sexually transmitted disease:STD)のうち最も頻度の高い感染症として,わが国でもその蔓延が問題となっている.
1)
性器クラミジア感染症(genital chlamydial infection): 女性では子宮頸管炎や子宮付属器炎,肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)などを起こす.また卵管への感染は癒着や通過障害で卵管妊娠不妊をきたす.男性では尿道炎,精巣上体炎などを起こし,前立腺炎との関連も示唆されている.女性では深部感染などにより,不顕性の場合が多い.近年若年層で感染者数の増加傾向がみられている.
2)
新生児クラミジア肺炎(neonatal chlamydial pneumonia): クラミジア子宮頸管炎の母体からは分娩時,母子感染を起こし,おもに3カ月までの児に新生児肺炎を高率に発症する.C. trachomatisによる成人でのクラミジア肺炎は免疫不全患者でまれにみられる.
3)
クラミジア性咽喉頭炎(chlamydial pharyn­go­laryngitis):
生殖器感染があると,口腔性交による咽頭・喉頭への感染の頻度も高く,成人の症例の増加が報告されている.頸部リンパ節炎を合併する場合もある.
4)
封入体結膜炎(inclusion conjunctivitis):
性器クラミジア感染症の合併症として,成人と新生児でみられる.産道感染や患者泌尿生殖器分泌物の手指や物を介した目への感染により起こる.トラコーマと異なり,再感染はまれで,パンヌス形成などはない.
5)
トラコーマ(trachoma): トラコーマ血清型(A,B,C)の感染で起こる慢性感染症である.古くから知られ,ハエや手指を介して結膜に感染し,慢性感染による瘢痕化失明につながる重大な眼疾患である.現在,わが国をはじめ衛生状態のよい国ではトラコーマはみられないが,アフリカなど発展途上国を中心にいまなお流行地があり,数千万人の感染者と数百万人の視覚障害者や失明の患者が発生していると推定されている.
6)
性病性リンパ肉芽腫症(鼠径リンパ肉芽腫症第四性病)(lymphogranuloma venereum): 生物型LGVの血清型(L1~L3
)による感染症で,現在わが国での発症はほとんどみられないが,最近,欧米ではHIV感染者や男性同性愛者間での発生がある.
7)
Reiter症候群

遺伝的素因(HLA-B27
)をもつ場合,非淋菌性尿道炎,結膜炎,関節炎を3主徴とするReiter症候群を発症することがある.
臨床症状
1)性器クラミジア感染症:
1~3週間の潜伏期間を経て,漿液性分泌物と排尿痛によって発症する.女性では軽微な症状の子宮頸管炎が多く,症候性でも粘液膿性帯下程度と軽い.腹膜炎や肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)に進行すると,激しい痛みを伴う.特に呼吸性の激しい右上腹部痛は横隔膜と肝被膜との索状癒着による症状でFitz-Hugh-Curtis症候群の特徴である.男性では,排尿痛のほか,尿道不快感,瘙痒感などの自覚症状で発症し,尿道炎,精巣上体炎などを引き起こす.尿道分泌液は白色膿性のことがあるが,淋菌感染と比べて症状が軽い.ただし同時に淋菌感染が合併することも多いので両者の検索が望ましい.
2)新生児クラミジア肺炎:
肺炎は通常は無熱であり,多呼吸,喘鳴,湿性咳などの呼吸器症状を呈する.
3)封入体結膜炎:
成人での潜伏期間は5~6日,急性濾胞性結膜炎を起こすが,緩徐に発症することもある.眼瞼結膜の充血肥厚,眼脂などを認める.産道感染の場合は生後1~2週間で発症し,偽膜形成がみられる.
4)トラコーマ:
結膜の濾胞形成,乳頭増殖,慢性感染による角膜への血管侵入(パンヌス)と瘢痕化で失明につながる.再感染を繰り返し,初感染ではパンヌスの形成はみられない.
5)性病性リンパ肉芽腫症:
性交後,1~2週間後に発症する.初発症状は外陰部の丘疹がびらん,潰瘍化し,その後発熱や頭痛などを認め,鼠径部のリンパ節の有痛性腫脹(横痃)を呈する.放置すれば陰部の象皮病などを起こす.
検査成績
 骨盤腹膜炎や肝周囲炎などでは白血球増加や炎症反応が亢進するが,ほかは通常検査であまり炎症反応は強くない.新生児肺炎では,白血球増加はなく,好酸球数が増加する.胸部X線で両側肺野にびまん性の粒状影やすりガラス様陰影などの間質性肺炎を認め,過膨張を呈することもある.
診断
 患部から直接,簡便にC. trachomatisの抗原や遺伝子を検出可能な診断試薬が開発されている.遺伝子増幅検出法(PCR,TMA,LCRなど),酵素抗体法(EIA),イムノクロマト法(IC),直接蛍光抗体法(FA)などが臨床利用される.血清中の抗C. trachomatis
抗体を測定する抗体価測定法は,病原体検出が困難な子宮付属器炎などの深部の感染では有用である.
治療
 成人ではテトラサイクリン系やマクロライド系,ニューキノロン系抗菌薬が有効である.ピンポン感染を防ぐため,患者とそのセックスパートナーを同時に治療する.予防にはコンドームの使用と,不特定なパートナーとの性的交渉を避けること,また母児感染の予防のために,感染母体の治療が重要である.[安藤秀二]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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