医学的には光覚のないものをいうが、日常生活に著しい不便を伴う程度の視覚障害も失明ということがある。一般に、外界から取り入れる情報のうち、視覚を通じて入ってくるものが80%といわれている。したがって、目に障害がおこると、情報収集の能率は著しく低下する。視覚の障害には視力、視野、色覚、光覚、眼球運動などの障害があるが、このうち視力障害がもっとも大きな問題となる。失明とは、正確には両眼とも光覚を感じなくなった状態をいうが、視力障害の程度によっては失明同様のハンディキャップをもつことになる場合もある。
[中島 章]
視力障害をおこす目の病気としては、透光体が混濁する疾患、眼底や視路の疾患をはじめ、緑内障、強度近視、弱視などがある。日本では5年ごとに全国養護学校就学者の視覚障害原因統計がつくられており、1930年代までは伝染性疾患や全身栄養によるものが多かったが、1960年代になると医療の進歩などによって先天素因による原因が過半数になり、1975年(昭和50)には76.5%を占めている。疾患別に多いものをあげると、牛眼(ぎゅうがん)、強度屈折異常(悪性近視)、水晶体疾患、網膜色素変性症、未熟児網膜症、視束視路疾患などで、先天異常による失明が非常に多くなっている。これらの先天性眼疾患は治療の効果が得られないことが多く、社会生活が著しく制限されるので、身体障害者として福祉面で配慮されている。また、数は少ないが、外傷や薬傷などの事故による失明をはじめ、青年期以降の疾患によって失明や高度の視力障害に陥った人には、社会生活面ばかりでなく、職業的にも自立できるためのリハビリテーションが必要である。近年は高齢者の増加とともに、糖尿病網膜症、緑内障、黄斑(おうはん)部変性なども失明の原因として重要になってきた。
なお、身体障害者福祉法による視覚障害の等級表では、次の6級に分けられている。
〔1級〕両眼の視力の和が0.01以下のもの。
〔2級〕両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの。
〔3級〕両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの。
〔4級〕(1)両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの。(2)両眼の視野がそれぞれ5度以内のもの。
〔5級〕(1)両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの。(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの。(3)両眼の視野の2分の1以上が欠けているもの。
〔6級〕片眼の視力が0.02以下で他眼の視力が0.6以下のもので、両眼の視力の和が0.2を超えるもの。
なお、視野障害については1994年(平成6)に改正がなされている。
[中島 章]
視力障害の程度は、両眼の矯正視力が0~0.02未満を盲、0.02~0.04未満を準盲、0.04~0.3未満を弱視と分けられている。その原因には先天性眼疾患や未熟児網膜症など出生直後からのものが多いので、障害が疑われたら、できるだけ早く眼科でその障害の種類と程度を明らかにすることが必要である。先天性白内障や牛眼など医療が必要な場合は適切な医療を受けるようにし、先天性で治療が困難な場合には、これからの社会生活に必要な生活上、教育上の指導が必要となる。失明と弱視では指導上区別されている。弱視の場合は入園または入学までは普通に育てることができるが、失明の場合は日常生活の訓練から行う。東京都では都立心身障害者福祉センターが担当して、保護者とともに定期的に指導を行っている。学齢期になったら特別支援学校で点字による指導が行われる。中学校卒業後は職業訓練を受けることになる。生下時もしくは幼児期に重度の視覚障害の存在が判明した場合と、いわゆる成人後に失明した中途失明では状況が異なるが、いずれにしても点字の習得や日常生活訓練に始まり、社会復帰が必要になる。
[中島 章]
字通「失」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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