血清型(読み)けっせいがた(その他表記)serum groups

改訂新版 世界大百科事典 「血清型」の意味・わかりやすい解説

血清型 (けっせいがた)
serum groups

広義血液型の一つで,各種の血清タンパク質の多型(一生物集団内に多数の遺伝的な型が共存する現象)の総称。ヒトや動物血漿(または血清)中には,それぞれ特定の生物学的役目をもった多種類のタンパク質が含まれているが,その多くのものに遺伝的な変異が認められており,それによってヒトや動物をいろいろな型に分けることができる。血清タンパク質も血液の構成成分であるから,その多型も血液型の一つといえるが,狭い意味での血液型(赤血球抗原型)と区別するため,血清型または血清タンパク型が慣用語としてよく使われる。ヒトの血清タンパク質のうち,とくに多型性に富んでいる(表現型の数が比較的多くて各型の出現頻度にあまり偏りのない)のは,ハプトグロビン(Hp),トランスフェリン(Tf),Gc,α1-アンチトリプシン(Pi),補体第4,第6および第8成分(C4,C6,C81),α2-HS糖タンパク質(AHSG),凝固系第XIII因子(FⅩⅢ-B),免疫グロブリン(Gm,Km,Am)などである。それぞれ通常2~9の表現型に分けられ,いずれも赤血球抗原型(血液型)と同様に単純な遺伝をする。それぞれの型はタンパク質の一部の組成の差(アミノ酸置換)によって決まるが,Gm型,Km型,Am型などはそれが抗原抗体反応によって識別され,Hp,Tf,Piその他の血清型はデンプンアクリルアミド,寒天などのゲルを支持体とした電気泳動法で検出される。Gc(ビタミンD結合タンパク質)型のように,等電点電気泳動法と抗原抗体反応の組合せで型の判定が行われるものもある。F13B,Hp,Pi,Gm,などはDNA型判定もできる。

 血清型には赤血球抗原型よりもむしろ多型性に富んだものが多いので,それらの遺伝標識としての価値は非常に高く,長年,遺伝学の研究はもとより個人識別,親子鑑別などの実際面にも広く利用されてきた。たとえばGm型(免疫グロブリンGのγH鎖の抗原特異性によって決められる型)を認知事件での親子鑑別に利用した場合,誤って父であると訴えられた日本人男子が父でないと否定される確率は約40%に達し,ABO血液型Rh血液型によるそれ(それぞれ約20%)よりもずっと確率が高い。Gm型はまた人種集団によって型の分布が著しく異なるところから,ヒトの集団の特徴づけや分化の過程の解明に役立っている。このように血清型は遺伝標識として有用ではあるが,近年DNA多型(DNA型)に主役の座がとって代わられている。赤血球抗原型とちがい,血清が輸血の際にとくに問題(障害)になるようなことはまずない。なお血清型はヒト以外の動物にも認められ,種属間の近縁関係の研究などに役立っているが,家畜では血統登録,親子鑑別,卵性診断,フリーマーチンその他いろいろな面に貢献している。
血液型
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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