クルディスターン(読み)くるでぃすたーん(その他表記)Kurudistān

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クルディスターン」の意味・わかりやすい解説

クルディスターン
くるでぃすたーん
Kurudistān

イランイラクトルコシリアジョージアグルジア)、アルメニアアゼルバイジャン国境の山岳地帯を中心とするクルド人の居住地域。クルディスターンとはペルシア語でクルドの土地を意味する。クルドの人口は500万~2500万と推定される。クルド以外にも、アッシリアンとよばれるネストリウス派キリスト教徒やトルクメンなども居住する。1920年、第一次世界大戦の連合国とトルコとの間に締結されたセーブル条約で、クルドの独立が約束された。しかしトルコとシリアでは、クルドは独自の民族としての地位を認められていない。イランには行政単位としてクルディスターン州があり、イラクにもクルディスターン自治区が存在する。しかし多くのクルドは、それに満足せず、イランとイラクでより大幅な自治を求めて武装闘争を行っている。住民の大半は農業や牧畜業に従事している。イラクのクルド居住地域内のキルクークには大油田がある。

[高橋和夫]

歴史

セルジューク朝時代に、アゼルバイジャンとルリスタンの間の、ハマダンケルマーンシャーを中心とする地方についていわれたのが最初である。ティームール朝時代(1370~1500)には、現在のイランのウルミエから、トルコのマラティヤ、上メソポタミアまでがその範囲とされた。オスマン朝サファビー朝の領土争奪の舞台となったのをはじめ、現在の諸国の国境画定に伴って分断され、今日に至るまで統一国家は成立していない。独立を求めて多くの反乱が起こされたが、いずれも弾圧され、イランで第二次世界大戦直後(1945)に成立したクルディスターン人民共和国も11か月で崩壊した。湾岸戦争(1990~1991)時のイラク領内からの難民問題、トルコにおける紛争など問題は絶えない。

[清水宏祐]

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改訂新版 世界大百科事典 「クルディスターン」の意味・わかりやすい解説

クルディスターン
Kurdistān

クルド族の居住地の意。トルコ,イラク,イランの3国にまたがっている。トルコでは南東部のトロス(タウロス)山脈の南からシリア,イラクの国境にかけての地域がクルド族の居住地である。このうちワン湖より西のボフターン地方はトルコ文化への同化が著しく,そのザザ方言はトルコ語の影響が強い。生活形態も遊牧でなく,ほとんど定住生活である。イラクでは北東部,ティグリス川の二つの支流である大・小ザーブ川上流の山岳地帯がクルド族の居住地である。スレイマニエで使われるクルド語のババン方言は文語をもち,1918年以来公用語として認められている。イランではウルミエ湖の西と南の西アゼルバイジャン州,それよりさらに南のコルデスターン州がクルド族の居住地である。以上の3国にクルド族は推定でそれぞれ200万人以上住んでいる。民族,文化,言語,社会組織の点で共通性をもち,これら3国に分断されたクルド族を一つにまとめて民族国家をつくろうというパン・クルド主義的構想もあるが,現実には地域差が大きい。
クルド
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百科事典マイペディア 「クルディスターン」の意味・わかりやすい解説

クルディスターン

トルコ,イラン,イラクの国境にまたがる高原山岳地帯。〈クルドの地〉という意味からこの名称がある。1923年のローザンヌ条約に基づき,現在のように分割された。約20万km2。鉱産資源に富み,石油,銀,銅,石炭を産する。平野は少なく,牧畜が行われている。クルド国家が形成されなかったため各国に散在するクルド人の政治的地位をめぐって紛争地帯となり,各国政府の実効支配が及ばない地域もある。クルド独立運動はこの地帯を拠点とするが,クルディスターンのみならず各地に定住するクルド族とも国境をこえて連携をとっており,各国との関係は複雑な様相を呈している。2013年より2014年にイラク・シリアで勢力を拡大したISに頑強に抵抗しているのは,クルド族民兵部隊である。→クルド[人]
→関連項目キルクーククルド語ティグリス[川]

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