クレアチンリン酸(読み)くれあちんりんさん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クレアチンリン酸」の意味・わかりやすい解説

クレアチンリン酸
くれあちんりんさん

クレアチングアニジン基リン酸化された化合物で、アルギニンリン酸と同様フォスファーゲンとよばれる高エネルギーリン酸化合物の一つである。クレアチンリン酸の化学式はのようになる。

 筋肉中では酵素クレアチンキナーゼの作用によりATPアデノシン三リン酸)とクレアチンリン酸は平衡に存在し、余分のATPはクレアチンリン酸の形で貯蔵され、ATPの濃度の4~6倍に達する。筋肉収縮などの際に、必要に応じてATPを再生し、とくに激しい運動などでATPの補給がまにあわなくなっても、しばらくはクレアチンリン酸を分解し、かわりにADPアデノシン二リン酸)をリン酸化してATPを合成し、エネルギーの供給をしている。このようなリン酸化合物をフォスファーゲンといい、脊椎(せきつい)動物では普通はクレアチンリン酸がこの役目をもっている。原索動物の場合は、クレアチンリン酸を使うものとアルギニン酸を使うものが、種によって分かれている。

 一方、軟体動物節足動物ではアルギニンリン酸をフォスファーゲンとしており、進化上この2群の動物の中間に位置する棘皮(きょくひ)動物には、クレアチンリン酸とアルギニンリン酸の両方をもつものや、それぞれ一方しかもっていないものなどがある。比較生化学分野で進化の過程を示す物質の代表例としてしばしば取り上げられる。

[菊池韶彦]

『バーク他著、入村達郎他監訳『ストライヤー 生化学』第6版(2008・東京化学同人)』


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改訂新版 世界大百科事典 「クレアチンリン酸」の意味・わかりやすい解説

クレアチンリン(燐)酸 (クレアチンりんさん)
creatine phosphate



ホスホクレアチンとも呼ばれ,ホスファゲンの一つである。1920年代にエグルトンP.Eggletonらがネコ筋から発見した。脊椎動物の筋に広く分布しているが,無脊椎動物でもウニ類に見られ,個体発生においてアルギニンリン酸と置き換わる。無色,水溶性。ATPと並んで高エネルギーリン酸エステルとして知られ,筋肉の収縮運動のエネルギー源として重要である(高エネルギー結合)。酸性では不安定で加水分解されてリン酸を遊離するが,中性では比較的安定である。クレアチンホスホキナーゼの作用で,ATP⇄ADPの転換に際し,可逆的にエネルギーを供給する。

 クレアチン+ATP⇄クレアチンリン酸+ADP

この反応はローマン反応と呼ばれる。生体内ではこの反応によってクレアチンとATPからクレアチンリン酸が合成される。カルシウム塩は吸湿性の結晶で水によく溶けるが,アルコールにはほとんど溶けない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クレアチンリン酸」の意味・わかりやすい解説

クレアチンリン酸
クレアチンリンさん
creatine phosphate

グアニジン誘導体の一種であるクレアチンのアミノ基 ( -NH2 ) にリン酸が結合した物質で,高エネルギーリン酸化合物の一種。筋肉でのエネルギー貯蔵物質と考えられ,クレアチンリン酸+ADP ⇔ クレアチン+ATPの反応によって,ATPを補充する,いわゆるホスファゲンの一種である。脊椎動物のホスファゲンはすべてクレアチンリン酸であり,無脊椎動物ではアルギニンリン酸その他が分布するのと対照的であるが,無脊椎動物のうちでもある種の環形動物,ギボシムシ,棘皮動物などには,クレアチンリン酸も存在する。

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栄養・生化学辞典 「クレアチンリン酸」の解説

クレアチンリン酸

 C4H10N3O5P (mw211.11).

 ホスホクレアチンともいう.筋肉においてクレアチンがATPからリン酸を受け取って生成する化合物.リン酸結合は高エネルギー結合で,運動などでATPが使われると,この化合物によって再生される.いわば高エネルギーリン酸結合の貯蔵型となる物質.

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百科事典マイペディア 「クレアチンリン酸」の意味・わかりやすい解説

クレアチンリン(燐)酸【クレアチンリンさん】

脊椎動物の筋肉に含まれるホスファゲンの一種。高エネルギーリン酸結合をもち,筋肉の収縮運動のエネルギー源として重要。生体内ではクレアチンとATPから酵素的に合成される。

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世界大百科事典(旧版)内のクレアチンリン酸の言及

【高エネルギー結合】より

…構造式中に~でその所在を示す場合がある。生体物質の中で重要なものにはATP(アデノシン三リン酸)のピロリン酸結合,アセチルリン酸のアシルリン酸結合,ホスホエノールピルビン酸のエノールリン酸結合,クレアチンリン酸のグアニジンリン酸結合などリン酸化合物が多く,これらの物質(または結合)を特に高エネルギーリン酸化合物(または結合)という。しかしそのほかにもアセチルCoAのチオエステル結合,S‐アデノシルメチオニンのメチルスルホニウム結合などの重要な例がある。…

※「クレアチンリン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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