改訂新版 世界大百科事典 「グラベット文化」の意味・わかりやすい解説
グラベット文化 (グラベットぶんか)
南西フランス,ドルドーニュ県のグラベットGravette遺跡を標準遺跡とする後期旧石器時代文化。古くはオーリニャック文化後期とされたことがあり,またペイロニはペリゴール文化第IV期に位置づけた。標準石器は石刃の片縁を直線形に刃つぶしした尖頭器で,これはグラベット型尖頭器と呼ばれる。ただ一般的に最も多く見られる石器は細部調整切面彫器である。この文化層に後続するのは三つの文化層であることがいくらかの遺跡で確認されている。古い方から有茎尖頭器(フォン・ロベール型尖頭器)をもつ文化,背つき切りとり石器をもつ文化,ノアイユ型彫器をもつ文化の順となる。この三つもグラベット文化に広く含められるが,グラベット型尖頭器との共伴関係が明らかになりきっていない。また次のソリュートレ文化への続き方も詳しくわかっていない。逆にグラベット文化がオーリニャック文化に重複して認められる例は多い。グラベット文化は西ヨーロッパのみならず,中央ヨーロッパ,ロシアにまで知られる。後者は東方系グラベット文化,およびパブロフ文化と呼ばれる。これらの文化層は多くの遺跡で温暖化を示す地層の中か,あるいはその直上に検出され,ポドルフ休氷期にあてられる。炭素14法による測定年代は前2万6000~2万年を示している。〈旧石器時代のビーナス〉といわれる象牙製の女性小像は,この文化の美術的所産を特徴づける遺物である。
執筆者:山中 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報