炭素14法(読み)たんそじゅうよんほう(その他表記)carbon 14 dating method

改訂新版 世界大百科事典 「炭素14法」の意味・わかりやすい解説

炭素14法 (たんそじゅうよんほう)
carbon 14 dating method

放射性の炭素14 14Cの崩壊を利用して数万年までの年代を測る方法。上層大気中の窒素に宇宙線が当たると,14N(n,p)14Cの反応で14Cが生じる。できた14Cは速やかに大気中に広がる。植物は光合成により大気から炭素を取り込むので,生きている植物細胞の炭素同位体組成は大気中の組成に等しい。動物も食物連鎖で植物に結ばれるので同じ組成をもつ。生物が死ぬと14Cの補給はやみ,14Cは崩壊定数λ(1.209×10⁻4/年)で14Nにβ崩壊することにより減少する。過去の生物も現在の生物と同じ炭素同位体組成をもっていたと仮定すると,年代を測定する試料に含まれる炭素1g中の14Cの量xと現在の生物に含まれる炭素1g中の14Cの量x0から年代は,で与えられる。14C法はたき火跡の炭化層や貝塚の貝の年代測定などで考古学に貢献するとともに,火山灰層に挟まれる泥炭層の年代測定などで古地磁気学に貢献した。
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百科事典マイペディア 「炭素14法」の意味・わかりやすい解説

炭素14法【たんそじゅうよんほう】

放射性炭素14Cを用いる年代測定法14Cは宇宙線によって大気の上層でつくられ,半減期5730年で壊変する。地球上での14Cの生成率および炭素の移動の状態が約10万年前から不変であったと仮定すると,大気中の炭酸ガス14C濃度は一定となる。いっぽう,生物体の14C濃度は,生きている時は大気中の炭酸ガスのそれと等しく,死後は放射壊変で減っていくので,生物の遺体,たとえば材木ミイラ貝殻などの14C濃度を測定し,大気中の炭酸ガスの14C濃度と比較することによって,その生物の生きていた時期を求めることができる。測定し得る年代の範囲は数百年から数万年の間で,考古学,人類学および現在に近い年代の地質学などで広く利用される。
→関連項目炭素リビー

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「炭素14法」の意味・わかりやすい解説

炭素14法
たんそじゅうよんほう

年代測定法の一つ。炭素の放射性同位体、炭素14(14C)が窒素14(14N)に壊変する性質を用いて、生物遺体の生成年代を測定する方法である。生きている生物は大気中や海水中の二酸化炭素(CO2)を取り込むため、体内の炭素14の割合は大気中や海水中の割合と等しく、一定の値をもつ。生物の死後、遺体中の炭素14の割合は放射壊変によって減少していくので、質量分析器などで現在の割合を計測することで、年代を求めることができる。半減期としては、5730±40年または5568±30年という値が用いられ、現在のところ測定可能な範囲は、遺体の生成時期が500年前から3万~4万年前の場合である。木片、木炭、腐植、泥炭、骨、貝殻などの年代を知ることができるので、地質学、地理学、人類学、考古学などの分野で広く用いられている。

[伊藤谷生・村田明広]

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世界大百科事典(旧版)内の炭素14法の言及

【宇宙線】より

…宇宙空間を光に近い速度でほぼ等方的に飛びまわっている高エネルギー(108eV程度以上)の放射線,およびそれが地球の大気中で空気を構成している原子核と衝突して発生する放射線の総称。前者を一次宇宙線primary cosmic rays,後者を二次宇宙線secondary cosmic raysと呼ぶ。一次宇宙線の主成分は各種の裸の原子核で,核子当り等しいエネルギーで比較すると,陽子(水素の原子核)が94.5%,ヘリウムの原子核(α粒子)が5%で,残りの0.5%がリチウムより重い原子核(炭素,窒素,酸素,鉄などの原子核が比較的多く,さらに重いものも含まれている)である。…

【保存科学】より

… まず文化財が〈いつ〉作られたかを知る年代測定法(年代決定法)として有効なものには数種ある。炭素14法はそのうち最も普遍的なものである。これは昔も今も大気中には一定量だけ存在する(と仮定されている)放射性炭素14を取り入れていた動植物等が,生命を失って文化財の一部となったのち,その量が減衰することを利用して年代を測定しようとする法である。…

※「炭素14法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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