日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリムの法則」の意味・わかりやすい解説
グリムの法則
ぐりむのほうそく
ドイツの言語学・説話学者ヤーコプ・グリムJacob Grimmがたてた、古典語とゲルマン語の間にみられる子音対応に関する規則。印欧基語とゲルマン基語の閉鎖音と摩擦音において、無声・有声・帯気音の間に次のような子音の推移がみられる。
(1)印欧基語の無声閉鎖音[p, t, k]がゲルマン基語では無声摩擦音[f,θ, x→h]となった。ラテン語の piskis「魚」、tenuis「薄い」、kaput「頭」の語頭音が英語の fish[fiʃ], thin[θin], head[hed]の語頭音に対応する。
(2)印欧基語の有声閉鎖音[b, d, g]はゲルマン基語では無声閉鎖音[p, t, k]に変化した。ギリシア語のkannabis「麻」、ラテン語の duo「二」、genus「種属」は、英語のhemp, two, kin「親族」にあたる。
(3)印欧基語の帯気音[bh, dh, gh]はゲルマン基語では無帯気音[b, d, g]に推移した。サンスクリット語の bharāmi「私は運ぶ」、madhu「蜜(みつ)」、stighnoti「彼は登る」は、英語のI bear、mead「蜜酒」、ドイツ語のsteigen[ʃtaigen]「登る」に対応する。グリムは、無声摩擦音[f,θ, x]と帯気音[bh, dh, gh]を気音群Aに、無声閉鎖音を硬音群Tに、有声音を軟音群Mに分類したうえで、下記の図式により推移の法則を表すことができるとした。
グリムの法則によって、同系統の言語の間に音韻の対応が成立することが認められ、これに基づいて比較言語学の研究手段が確立された。さらに、同一系統の言語の語形を比較対照させることにより、その原形を推定することができるようになった。
[小泉 保]